とまあ、ペーパーの内容は稚拙なのですが、こうしたペーパーが出てくるほどの「閉塞感」とは何なのでしょうか。私たちが日本で暮らし、生きていくにあたって、こんな先行きの暗い、つまらない社会で本当に良いのでしょうか。

目を転じれば、猛烈な経済発展を遂げた中国ではキャッシュレス社会に移行し、都市圏で貨幣やコインを使っている人はめっきり見なくなりました。あるいは、東南アジア各国では固定回線を敷かずすべてがモバイルでのコミュニケーションとなって、日本以上に場所にとらわれない先進的な通信環境を実現しています。学術面においても、先端研究の論文で日本は後塵を拝するようになっています。このペーパーが指摘するように、研究者の年齢構成がいびつな故に、若い研究者は予算が行き渡らず汲々としています。

過去の知見は役に立たない

おそらく、このペーパーの主眼は、衰亡する日本の中で何をなすべきかという退廃的な議論ではなく、ブレイクスルーを惹起するような建設的な議論を増やしたい、ということなのでしょう。たしかに根拠となる各種データはクソですが、このまま新しい何かを実現できなければ日本はヤバいという気持ちにはなります。

裏を返せば、そういうペーパーが、よりによって既得権益の象徴でもある霞が関の経済産業省から出てきたというのは皮肉なことです。まるで幕末に浅学の藩士が藩の財政を憂いて檄文を書いているかのようです。私たち外野から見れば、歴史的使命を終えた経産省こそ用無しなのだから早々に解体するべきと思うところですが、このような若さに裏打ちされた勢いが見られる文書が出るというのは素晴らしいことです。

いま必要なことは、右肩上がりの時代の常識を捨て、現在のような右肩「下がり」の時代に適した制度と思想を構築することです。そのときには、積極的にヒトとカネを投入すべき分野と、先を見切って縮小・撤退を断行すべき分野を、判断することが求められます。このペーパーに書かれているように、高齢者よりも若い人、子供を産める現役世代にリソースを割き、日本社会を持続的なものにしていく必要はあるのでしょう。

人類は歴史上、そのような急激な人口減少下の社会構造の変容・問題を経験したことがありません。その意味では、日本は過去の知見が役に立たないフロンティアに立っていると考えて、思い切った議論を先導していってほしいと思います。煽動ではありません。先導です。

【関連記事】
なぜ"経産省若手提言"はネット炎上したか
「60代のひきこもり」が増えている
長生きするほど通帳が0円に近づく恐怖
"働き方改革"という絶対無理な"死にゲー"
若手女性議員が論議「シルバーデモクラシーの弊害」