村上春樹氏の最新作『1Q84』がベストセラーになっているが、かたや日本の文学賞を眺めてみれば、外国人作家の台頭が顕著になっている。昨年は楊逸氏が中国人で初めて芥川賞を、今年には在日イラン人のシリン・ネザマフィ氏が文学界新人賞を受賞した。

移住や亡命などによって母語から離れ、居住先の言語(非母語)で創作する作家たちの文学を「越境文学」と呼ぶ。日本では日本語を母国語としない作者による日本語作品のことである。

そもそも越境文学は、20世紀以降、植民地における宗主国と先住民文化との衝突から生み出されたもので、特定の文化からの逸脱や離反、抵抗が題材となる。名古屋市立大学教授・土屋勝彦氏は、「越境文学作家は英語やドイツ語、フランス語といったメジャーな言語を選ぶ傾向があり、これはいわゆる『国民文学』に抵抗する潮流の一つ」とし、国際的に見ても現代文学の重要な一角を占めていると指摘した。

では、今後日本ではどのような動きが見られるだろうか。土屋氏は「欧米出身の現代日本語作家として、リービ英雄氏、デビット・ゾペティ氏、アーサー・ビナード氏などが登場したが、今後は中国韓国、日系ブラジル人の作家が出てくる可能性がある」と語る。

楊氏の芥川賞受賞作品『時が滲む朝』は8万6000部を発行し、文芸書としてはヒット作となった。村上春樹氏も、厳密な意味での越境作家ではないものの、米国文化をベースに書いているという点では、越境文学に通じるものがある。構造不況にあえぐ出版業界はこの「越境文学ブーム」に乗らない手はないだろう。