学会でも推進派が増えている

日本の栄養学では、炭水化物:タンパク質:脂肪は6:2:2の割合でとることを奨励しています。これは、農林水産省や厚生労働省、日本糖尿病学会、日本動脈硬化学会すべてが賛同してきた値です。

しかし、アメリカの糖尿病学会が、2013年のガイドラインで、適切な3大栄養素比率は確立されていないことを認めたため、従来の「栄養バランス」の考え方は少しずつ変わってきています。そのガイドラインでは、『1日あたり130グラムの糖質が最低限必要』という文言を削除し、新たに、糖質制限食を糖尿病治療の選択肢のひとつとして認めています。アメリカの糖尿病治療でもっとも権威のあるジョスリン糖尿病センターでは、推奨する栄養素の比率も、炭水化物4:タンパク質3:脂肪3へと数値を変更しているのです。新たなガイドラインの起草委員の一人が、デューク大学のウィリアム・ヤンシー准教授です。彼は、糖質制限食による臨床研究から「糖質を抑えたケトン食で健康関連因子は改善する。今後、糖質制限はより積極的、徹底的に研究され、治療選択肢として考慮される必要がある」と述べています。アメリカだけではなく、イギリスやスウェーデンなどでも、糖質制限を糖尿病治療に取り入れて成果を上げつつあります。

糖質制限を否定してきた日本糖尿病学会

日本糖尿病学会は、これまでずっと、糖尿病治療における糖質制限を批判し続けてきました。糖尿病で恐れられているのは、インスリンの欠乏によってもたらされる「糖尿病性ケトアシドーシス」です。この状態が続き症状が進行すると死に至るため、インスリン分泌がうまく働かない糖尿病患者には、血糖値の上昇を抑えるインスリン注射を施すことが正しい治療法だとされています。糖質制限をしてケトン体値が上がると、糖尿病性ケトアシドーシスの原因となると考えられてきましたが、これがそもそも間違いなのです。

ウィリアム・ヤンシー准教授も「血糖制限で血中ケトン体値が上昇したといっても、糖尿病性ケトアシドーシスとはまったく異なるものです」と断言しています。

糖尿病の治療において、日本人にも糖質制限食が有効であることは、北里研究所病院糖尿病センター長の山田悟先生による、無作為比較試験の論文によって2014年に証明されています。糖質制限に対する糖尿病学会側の批判の根拠は、すべて欧米の観察研究によるものですが、複数の論文をまとめて分析するやり方(メタ解析)をとっているため、そのなかに事実と異なる内容の論文が入っていると、結論が変わってしまいます。

私が、「妊娠糖尿病は糖質制限食で治療成績が良好」という学会発表をすると、糖尿病学会誌にはすぐさま反論の意見が医師たちから寄せられました。それは例えば次のような内容です。

「今回我々は、極端な糖質制限食(タンパク質:脂質:炭水化物=17.7:50.9:30.9=1094キロカロリー/日)にて治療を受けていた妊娠糖尿病患者を経験した。本症例は当院入院時(妊娠36週)に倦怠感、嘔気や高ケトン血症を呈していたが、入院後、糖質制限の解除により速やかに症状回復し、妊娠39週目に異常なく出産した」

糖質制限を続けていたら危険だったという趣旨の内容ですが、よく見ると、1日のカロリーが1094キロカロリーとあります。そもそも、妊婦は1日に2750キロカロリーくらいとらなければ、お腹の赤ちゃんまで栄養が行き渡りません。必要なエネルギーが不足しているのですから、体調が悪くなるのは当たり前です。糖質制限とカロリー制限を同時に行っていることに原因があるのに、すべてを糖質制限のせいにしている点ですでに認識がずれているといえるでしょう。