有事の際、在韓邦人が大きな危険に晒される
もし、こうした事態が続けば、現状では実に勇ましい世論も、歌舞伎役者の市川海老蔵氏が先日ブログに投稿して話題になり大きな批判も受けた「日本を巻き込むなよ!」という、米国の北朝鮮攻撃の基地使用に反対する意見が強くなるだろう。
もう1つは化学兵器への日本人の恐怖を悪用した心理的擾乱だ。4月頃から北朝鮮がサリンやVXガスによる対日攻撃を実施する可能性が一部メディアによって声高に指摘されている。何故、北がそのような行動を取るのか、その政治的・軍事的合理性の説明はほとんどなく無意味に不安を煽るだけとしか筆者には思えないが、北朝鮮はこの「不安心理」を巧みについてくるかもしれない。
例えば、日韓の各主要交通機関で異臭騒ぎやサリンと書いた液体の袋が放置されたり、不審な液体を積載したドローンが発見される事件が相次げば、国民の不安は頂点に達するだろう。そうなれば北朝鮮は弾道ミサイルを使うことすらなく、日本や韓国を米国との共同戦線から脱落させることができる。
最後に、日本の領土・領海への弾道ミサイル攻撃だ。これまでのEEZ(排他的経済水域)への着弾ではなく、領海や鳥取山中のような過疎地への着弾を図るというものである。北朝鮮としては、先制攻撃時のリスクを日本国民に思い知らせ、攻撃を断念させるのだ。
いずれにせよ、わが国がまず念頭に置かねばならないのは、米朝の軍事的緊張が高まった状態で北朝鮮が仕掛けてくる神経戦なのだ。当然、米朝が開戦すればより過激化して実施される。すなわち、サイバー攻撃や特殊部隊員による攻撃によって、日本のインフラは大混乱に陥り、弾道ミサイル攻撃および破壊工作が在日米軍基地や重要インフラに対して実施され、不安心理、厭戦気分に陥らせるためのテロが繰り返し起きることになる。
米国は、日本に対し、「北朝鮮を攻撃する際に、事前に、日本政府へ伝達する」旨の約束を日米両国間でしたと発表があった。しかし、この「伝達」は、攻撃の直前30分前になってしまう公算が高い。時間に余裕をもって日本に伝達すると、自制なり延期を求められる可能性があり、さらには情報漏洩の危険もある。実際、69年にニクソン大統領が北朝鮮による米偵察機撃墜での31人死亡の報復として、限定攻撃を検討した際も「30分前に連絡すればよい」としている。さすがにこの直前の伝達では「自主避難」により、4万人弱の在韓邦人に加え、出張・旅行者の安全を確保するのは難しい。
しかも攻撃開始後は、在韓の世界各国の人も一斉に逃げ出し大混乱となり、北朝鮮国境に近い仁川空港は危険なため封鎖される可能性が高い。北朝鮮としても、在韓米人が避難を完了すると、米軍は遠慮なしに攻撃できるようになるので、総力をあげて妨害してくるだろう。韓国の一般国民もパニックになって、国外や南部への避難を図るということを考えておく必要がある。となれば、南部の空港・港湾および当該地への交通インフラは大渋滞なり破壊工作を受けて使用が困難ということになる。
その際、米軍は20万人ともいわれる在韓米人の保護にてんてこ舞いで、日本国民にとって頼れる存在になることはない。実際、米側は非戦闘員である自国民の退避は基本的には該当する国が自ら実施するべきというスタンスである。自衛隊の邦人救助活動は韓国の同意により認められるが、韓国の港湾や空港への自衛隊機の利用は可能としても、韓国内での自衛隊のヘリ飛行等の活動はまず拒否されてしまうだろう。特に、日本国内で、在日韓国・朝鮮人、さらには避難してきた韓国人に対して、嫌がらせや報復が起きれば、在韓邦人はますます苦しい立場に置かれてしまうのは想像に難くない。
在韓邦人や韓国へ旅行の予定がある人は、3カ月以上なら在留届、未満なら「たびレジ」に登録し(登録しなければ存在しないことになる)、今後の半島情勢の推移をよく注視し、同時に「自分の身は自分で守る」ことを前提に、事態急変時の空港や港湾なりへの国外脱出ルートを探しておくべきだ。
このように、米朝の緊張が今後高まれば様々なリスクが発生する。だが、そのリスクにただ怯えるだけでは、その不安心理につけこむ北朝鮮を利するだけだ。起こりうるリスクとその対処法を冷静に認識することが肝心だ。