「面白い」はゲラゲラ笑うだけじゃない

――なぜ朝日新聞を?

日本の新聞の中で最も権威もあって、かつネタにもされやすいからです。朝日は、よくゴシップ紙や週刊誌に「また朝日はこんなこと書いて……」などといじられるので、そういう情報が出る前に、まっさらな状態で読んでおこうと。要は、この記事のこのへんがまた茶化される、あるいは褒められるだろうな、というアタリをつけるために朝日新聞を取ったんですけど、そうしたら社説が面白いわけですよ。最初は「なんでいつもこんなに上から目線なんだろう?」と思いました(笑)。

――どこまでも偉そうですよね。

しかも、文体も小難しいじゃないですか。このとき、「新聞社の偉い人が、暖かい部屋でいい椅子に座って地球の裏側のことを心配している」と思うと腹が立ってくるんですが、「大御所の師匠が若手に説教を垂れている」と思うと、途端に面白く読めるようになったんですよね。「また師匠が、大して興味もないのにムリしてコメントしているよ」みたいな。それから他の新聞の社説も読むようになったところ、見事に論調が違うので、そこから読み比べにハマったんですよね。

――鹿島さんの“時事芸人”としての視点は、そうした読み比べの中で培われていったのですね。

自分は芸人なんですが、ネタをやるだけではなく、ほかの芸人のネタについても話すことがあります。現在、同じく芸人であるマキタスポーツ、サンキュータツオと「東京ポッド許可局」というラジオ番組をやっていますが、その前身になった自主配信のポッドキャストでは「昨日の『M-1グランプリ』を見てどう思った?」といったことを話題にしていました。これがお笑い好きの人にウケたんですね。2008年から自主配信していたのですが、そのおかげで、2013年からTBSラジオのラジオ番組になりました。

そのとき、あらためて「面白い」には二種類あることに気付いたんです。つまり、ゲラゲラ笑うという意味だけではなく、興味深いという意味もある。どちらも芸人の仕事なのですが、テレビで放送される「M-1グランプリ」が前者だとすれば、僕らが自主配信していたのは後者だったんですね。

――ネタ自体を笑うのではなく、そのネタの見方や解釈を提示するという「面白い」もあるわけですね。

そうです。自主配信を通じて、特にネット上では後者の「面白い」が支持されることを、まざまざと感じました。「じゃあ、僕らの芸風って、新聞や時事ネタにも応用できるんじゃないか」ということで、ニュースそのものよりも、ニュースがどう報じられているか、という部分に興味を持ったんですよね。

――それが「社説のパロディ」というネタにつながるのですね。

そうなんですよ。僕は子供のころからプロレスが好きだったんですが、まさにプロレスは試合の勝敗よりも、「試合の見方」を楽しむものなんです。どんな視点で物事を見るかという点は、プロレスに鍛えられましたよね。僕の場合は、その見方をプロレスから新聞にスライドさせただけかもしれません。