東大進学で1500万円コース
教育社会学者が扱ってきた研究課題の1つに「学歴の効用」を検証するというものがある。学歴には効用がある。経済的な側面に限定すれば、学歴が高くなるほど生涯賃金は増す。ただ、いま現在の効用の姿を正確に理解している人はどれほどいるだろうか。たとえば、大学進学率が50%を超えた昨今、学歴の効用は低下している──。このように考えている人も多いのではないか。
少なくともデータを見る限り、現実に起きているのは、むしろ大卒の「一人勝ち」である。国の「賃金構造基本統計調査」で学歴別生涯賃金(男子、以下の値も同様)を算出すると、1975年の時点では、中卒と高卒間の賃金格差は1380万円、高卒と高専・短大卒間は1840万円、高専・短大卒と大卒間は1540万円で、学歴ごとの差異はほぼ等間隔だった。ところが、2010年には、中卒と高卒間は1710万円、高卒と高専・短大卒間は690万円、高専・短大卒と大卒間は4980万円となっている。以前は高専・短大卒にもそれなりの効用があったが、いまは高卒に近づいており、他方で大卒の価値は高まっている。
また、大卒の効用を議論するとき、よく用いられる指標に「収益率」というものがある。大学進学にかかる費用と、その後の賃金を勘案して、大卒進学がどれほどの投資にあたるのかを利子率で表したものだが、いまでも6~8%という値が算出される。普通預金の金利が1%をはるかに下回る現在、大学進学はかなり「おトク」な投資なのだ。
それでは、なぜ学歴が高いほど収入が増えるのか。それは教育年数が増えるほど、人材としての価値が高まるからだと考えられる。つまり教育を受けることで知識能力が高まる。そのため、賃金の高い仕事に就くことができる。
こうした主張には批判も多い。たとえばこうだ。高学歴ほど所得が高いのは、高学歴獲得までの受験に勝ったことで、生まれ持った能力の高さを示すシグナルを手中にしたからだ。教育や学習による効果があったわけではなく、学歴は生得的能力を反映しているだけにすぎない──。
もちろんそうした側面はあるのだろう。そして私自身、この「シグナルの強さ」を目の当たりにした経験もある。昨年、『「超」進学校 開成・灘の卒業生』(ちくま新書)を上梓したが、そこでは開成中学校・高等学校(東京都)と、灘中学校・高等学校(兵庫県)の卒業生の実態について、統計的分析を行っている。