家庭における衣料品支出額(年間)は、1991年度の29万円をピークに2008年度は14万円と52%も減じている。その中で、ファーストリテイリングの09年8月期の業績予想は売り上げ前年比16.3%増、営業利益同23.4%増となっている。
ファーストリテイリングのバランスシートは小さい。工場や物流センターを自社で持たず、店舗は借地が多い。固定資産をできるだけ小さくし、コストを絞ることによって調達した資本から効率的に利益を生み出している。それは図の通りROA(総資産利益率)、ROE(株主資本利益率)の高さに示されている。
SPA化を極めることにより、棚卸資産回転数の短期化も進めて、商品を現金化するまでの時間が早まった。潤沢なフリーキャッシュフローには、経営の安定度がうかがえる。
こうした経営基盤の上に、ユニクロの圧倒的な商品力が存在する。
ユニクロひとり勝ちといわれる理由について、前出の須藤氏は「ユニクロが日本人にとって生活になくてはならない存在になっているからです」と説明する。いつ店舗に行っても定番品があり、なんとなく安心感がある。しかも、商品は不断の進化を続けている。
「電気、水道、ガスのように、ユニクロはもはやライフライン的な商品なんです。柳井社長が『安さを売りにしているわけではない』というのはその通りで、ユニクロの価格は誰もが買え、日常的に使えるための、帰結としての値段設定にすぎない」(須藤氏)
不況に強いもう一つの理由は、商品の汎用性の高さだ。たとえば今年売れているチュニック(丈の短いワンピース)とスカートの2パターンの着こなしができる20代女性向けの2WAY商品があるが、これは「節約志向」「限られた収納スペース」で生活する幅広い層の女性から支持を得ている。
こうして、生活に即した潜在需要を掘り下げ、それを満たす商品をいちはやく開発する仕組みができ上がっている。
「合理的な価値を生み出すこの仕組みは、感性への依存度が低いのでロジカルに考えて結論を出しやすい。だから、安定的にこれだけの利益を出せるのです」(同)
アパレル業界は、長くからの商慣習により、高コスト体質を抜け出せずにいる。大きすぎる固定資産にあえいでいる企業も少なくない。リードタイムは平均半年、よって商品が現金化されるまでの期間も長い。
その問題に10年以上前に気づき、業界のルールにとらわれず安くてよいものを顧客に提供するためのSPA体制をつくり、それを支える経営に本気で取り組んでいるのがユニクロなのだ。
※すべて雑誌掲載当時