複式簿記を利用した「家庭用会計ソフト」
私が15年前に開発した「家庭決算書」(http://www.kateikessan.co.jp/)は、企業会計で用いられている複式簿記を採用しています。家庭決算書の最大の特徴は、企業会計でいう「貸借対照表(バランスシート)」が自動生成される仕組みにあると思います。家庭決算書ではそれを「財産対照表」と名づけています。
家計簿をつけている方の多くが、預貯金や有価証券投資など資産の残高状況を「資産表」などの別表で管理していると思います。しかし、資産表の残高を正確に把握しようと思えば、取引の都度、手入力で残高を変更する必要があります。なぜなら単式簿記の家計簿は日々の支出の記帳と資産表との間に連動性がないからです。それはかなり手間のかかる作業なので、資産表をつけている方も、年1回とか半年に1回とか、周期的に見直して残高を確認しているにすぎないのではないでしょうか。
家庭決算書では、日々の取引を入力すると、収支(より正確には消費損益)を管理できる「消費損益計算書」と、資産や負債、財産の状況を管理できる「財産対照表」が自動で連動して生成されます。これは家庭決算書が企業会計で用いられている複式簿記をベースに開発しているから可能になったことです。
住宅ローンや教育ローンなどの負債を抱えその残高が毎月変わる人、有価証券投資など資産運用を行っていて運用残高やその時価評価額が毎月変わる人など、家計の財産状況が毎月変動する人が、その状況をいつでも正確に、一元的に管理するツールとして開発したのです。
家計にも「バランスシート」が必要だ
私が家庭決算書を開発するきっかけとなった出来事があります。
あるビジネスマンの方からこんな相談を受けました。お子さんが大学に進学されたので、預金を取り崩して入学金等に充てた。これから学費もかかるし、下の子も大学受験を控えている。このままだと老後のために蓄えてきた預貯金が底をつき、定年退職後の生活に支障をきたすのではないかと不安に思っている、というものでした。
私は「ところで、住宅ローンの残高はいくら残っているのですか」と質問しました。ご自宅を売却して教育費や老後資金に充てるという選択肢も視野に入れておくべきだと考えたからです。すると、「いやー、毎月の支払額は知っているけど、ローン残高までは……」との返答でした。
私は愕然としました。
大学進学という比較的予測や計画がしやすいライフイベントだけでなく、けがや病気で収入の道が途絶えた、勤めていた会社が倒産した、リストラに遭遇した、そんな最悪の事態に陥ったとき家計はどうなるのか。家もクルマも貴金属も、ともかく売却可能な資産をすべて売り払い、その中から借金を全額返済したとき手元にいくらお金が残るのか、つまり資産から負債を引いた財産がどれくらいあるのか、その会計情報を把握しないで家庭経営の舵取りをすることはできないはずです。
会社経営を思い浮かべれば当然のことです。財務諸表なしに、経営者は正しい意思決定を下すことはできません。財務状況を大雑把にでも把握していない経営者がいるとしたら、その人は経営者失格といわざるをえません。
しかし、私が愕然としたのは、相談者が住宅ローンの残高を知らなかったからではありません。相談者が特別な人ではないこと、特別どころか、一般的、標準的な人なのだと気づかされて愕然としたのです。思えば当たり前のことです。日本には複式簿記で家計を管理する手法もツールも存在していなかったのですから、家計にバランスシートが存在するはずがありません。それが家庭決算書を開発したきっかけでした。