ドイツ駐在で知った労働時間への意識

長く男性社会だった自動車開発の世界にも、女性が進出し続けている。1999年入社の福原千絵氏は「音」のスペシャリストで、2005年には自動車技術会「浅原賞」も受賞した。

車両開発本部 NVH性能開発部 福原千絵氏。1974年生まれ、99年入社。2005年、自動車技術会「浅原賞」受賞。音のスペシャリスト。 「女性エンジニアで初めてドイツ駐在。前例を気にしない会社なんです」

「アクセルを踏んで加速したり、減速したり、クルマの運転では何らかの音が出ます。『ドライバーが心地よいと感じるものは何か?』からスタートし、人間の感性や運転する環境を考えながら、静粛性やエンジンサウンドといった音響開発をしています」

2015年5月に発売された白の「ロードスター」を運転しながら話す福原氏は、同年のGWまでドイツに駐在していた。駐在は自ら希望。それ以前の2週間のドイツ出張で、アウトバーンなど自然な環境の中で実験を繰り返し、音響開発への意識が変わったからだ。

「日本では社内テストコースなど、特定の環境での実験が多かった。欧州の一般道で徹底調査すれば、もっとお客さまのためになると思ったのです」

帰国した翌週に個人面談があり、ドイツ駐在を希望したら、ちょうどポストに空きがあり登用された。ドイツでもテストグループの30~40人は男性ばかり。赴任時に「Congratulations!」と言われたという。

福原氏も、クルマ好きが高じて入社したのではない。学生時代は応用化学を専攻し、就活では化粧品やトイレタリーメーカーも回った。「『女性は前例がない』と言われることも多かったのですが、マツダは前例を気にしない会社。ドイツ駐在も女性エンジニアでは初めてでした」

ドイツで学んだのは、自動車先進国の視点。「2012年に発売された『アテンザ』の試作車がドイツに来たときのことです。日本本社ではほぼ出来上がっている状態でしたが、ドイツのスタッフ全員が納得いかない。『人工的な感じがする』『ドイツの名車と比べるとまだまだ』と。最初は異論も出ましたが、本社もこちらの意見に耳を傾けて修正していきました。納得いくまで造り込んだので、自信を持って発売できたのです。以来、音の開発を早い段階から一緒に進め、今ではツーカーで話せる関係です。私も、言いたいことがあれば言いますよ。でないとあとで後悔するし、やりきった感じがしません」

働き方、生き方に関する価値観の違いにも刺激を受けた。「日本では特に男性が働きすぎますよね。ドイツでは『お疲れさまでした』って言わないんです。『夕方をエンジョイしてね!』と言って帰っていく。子どもを迎えにいくので15時に退社、というのは男女を問わず普通でした」

現在は、次世代車の静粛性コンセプト・構造具現化のリーダーを務める福原氏は、開発現場に女性が増えたことで変化が起きていることを実感している。「女性はエンジニアといえど、カーマニアではない人が多い。技術のおじさんたちも素人相手に説明する機会が増え、対外的にもこれまでのような、スペック中心ではなく、わかりやすい説明をするように変わってきました」