リーダーに必要とされるものは?

外資系企業2社目は、前職のスイス系商社が扱っていたブランド「ジャガー・ルクルト」のスイス本社。スカウトによる転職で、ここでマネージャーとしてのキャリアがスタートします。ジャガー・ルクルトの本社は、ジュウ渓谷というフランスとの国境近くの標高1000メートルの山間にあり、フランス語圏。フランス語は「ジュマペルミチコ=私の名前はミチコです」しかできませんでしたが、チャンスは逃がしてはいけません。自分なりに大きな決断をして、2000年5月、単身スイスに飛び立ちました。

森本さんが愛用する「ジャガー・ルクルト」の時計。この時計には、マネージャー時代の森本さんの努力と情熱の思い出が刻み込まれている。

それから2年あまり、日本人と中国人の女性部下と3人でチームを組み、日本およびアジア市場に対するマーケティング全般を担いました。ここでの経験は貴重でした。「本物」を見極める眼を養い、グローバルな視点でブランド戦略を企画・立案・実施する。マーケッターとしての成長を、我ながら実感することができました。

そんなある日のこと、当時のジャガー・ルクルト社の社長に「日本企業は男性社会だから……」と何気なく話したところ、「それはどこの国でもそう。だから女性は頑張って働いているんだよ」との返事が。スイスの企業といえども、まだまだ男性社会だったのです。それにも関わらず役職を得ている女性が多いのは、独自の感性とセンスを生かした上で成果を出しているから。ポジションを得るためには、誰にも真似できない「武器」を持つことが大切だったのです。私の場合は、それまでの経験から「マーケティング能力」が武器となり、人生を切り拓く糧となっていきました。

また、そのジャガー・ルクルト社の社長は経営者としても非常に素晴らしい人で、自社で働く社員全員に分け隔てなく接していました。掃除のおばさんだろうが、庭師のおじさんであろうが、工房で働いている時計師であろうが、誰にでも挨拶をして、話をしながら握手を交わします。工場を含めて1000人以上の社員が、この社長の謙虚な姿勢に感動し、働くモチベーションを上げていました。上に立つ人物とは、かくあるべきもの。「人間力」こそが、リーダーに必要な資質なのだと痛感しました。