転職を重ねながら「オメガ」や「ジャガー・ルクルト」などのブランドで活躍され、外資系企業4社を生き抜いてきた森本道子さん。マネージャー、部長、事業部長とポジションを獲得してきた彼女は、そこで何を学んだのか? 現在は「起業」を果たして株式会社ココミーユの代表取締役となった森本さんに、今回、女性マネージャー(課長職)に求められるものを振り返ってもらう。

男性社会でマネージャーになるためには?

「2020年までに女性の指導的地位(管理職レベル)比率を30%に!」。安倍内閣はこう発信しながら、各企業に対してその達成を推進しています。ただ、多くの人が感じている通り、今すぐ女性管理職30%を実現するのは難しいことです。企業内にはいまだに男性社会の雰囲気が漂っていますし、女性自身にもまだまだ甘い考えが残っているからです。

株式会社ココミーユ代表取締役社長である森本道子さん。7回もの転職を重ねながらキャリアを積み上げ、2013年に念願の起業をした。今回は、外資系企業でのマネージャー時代に学んだことを振り返ってもらう。

私は日系企業3社で働いた後、経営学のMBAを修得した上で、1990年代前半に外資系企業へ飛び込み、「ジャガー・ルクルト」や「オメガ」といった時計のブランドビジネスに携わりながら、4社の外資系企業に勤め、マネージャー、部長(ディレクター)、事業責任者とポジションを獲得してきました。

今回は、その中で学び、経験したことから、特に、「女性マネージャー(課長職)になるために必要とされる資質」についてお話したいと思います。また、それによって、女性が企業の中で躍進していく本質的な難しさを知り、自身のステップアップをより真剣に考えるようになっていただければと願っております。

さて、私の外資系企業での1社目は、スイス系商社でした。ここはファッションブランドなどを扱う会社で、私は「ジャガー・ルクルト」「エテルナ」「モーリス・ラクロア」という3つの時計ブランドの広報宣伝担当として働き始めました。当時はスイス機械式時計業界が躍進を遂げようとしていた時期で、担当したブランドの広報宣伝だけに留まらず、マーケティング全般にも関わることができました。

ただ、このスイス系商社は外資系企業とはいえ、社内で働く人たちは日本人の男性が中心。今とは比べものにならないほど男性社会傾向が強かった1990年代のこと、また、外資系企業だからこそ、男性上位の構図やその社内への影響はよりダイレクトなところがありました。頑張れば頑張るほど、陰口や嫌みを社内の日本人男性から言われたことも多々ありました。そんな時、スイス人の副社長だった上司からのアドバイスがありました。

「女性同士で徒党を組むようにランチに行くのは良くない。男性社会でマネージャーになりたいのならば、営業部長や男性社員と会話をして理解し合うことが大切。それに、社内の女性たちがする噂話には加わらない方が好ましい……」。

その言葉に従って、男性社員と積極的にコミュニケーションを図り、もちろんランチや飲み会にも付き合いました。一人ひとりと会話をしていけば、その相手が何を考えているのか、どうしたいのかがよく分かりますし、相手の立場になって考え直してみれば理解はもっと深まります。コミュニケーションとは、相互理解によって生まれることを学び、結局、このスイス系商社には9年近く在籍しました。

リーダーに必要とされるものは?

外資系企業2社目は、前職のスイス系商社が扱っていたブランド「ジャガー・ルクルト」のスイス本社。スカウトによる転職で、ここでマネージャーとしてのキャリアがスタートします。ジャガー・ルクルトの本社は、ジュウ渓谷というフランスとの国境近くの標高1000メートルの山間にあり、フランス語圏。フランス語は「ジュマペルミチコ=私の名前はミチコです」しかできませんでしたが、チャンスは逃がしてはいけません。自分なりに大きな決断をして、2000年5月、単身スイスに飛び立ちました。

森本さんが愛用する「ジャガー・ルクルト」の時計。この時計には、マネージャー時代の森本さんの努力と情熱の思い出が刻み込まれている。

それから2年あまり、日本人と中国人の女性部下と3人でチームを組み、日本およびアジア市場に対するマーケティング全般を担いました。ここでの経験は貴重でした。「本物」を見極める眼を養い、グローバルな視点でブランド戦略を企画・立案・実施する。マーケッターとしての成長を、我ながら実感することができました。

そんなある日のこと、当時のジャガー・ルクルト社の社長に「日本企業は男性社会だから……」と何気なく話したところ、「それはどこの国でもそう。だから女性は頑張って働いているんだよ」との返事が。スイスの企業といえども、まだまだ男性社会だったのです。それにも関わらず役職を得ている女性が多いのは、独自の感性とセンスを生かした上で成果を出しているから。ポジションを得るためには、誰にも真似できない「武器」を持つことが大切だったのです。私の場合は、それまでの経験から「マーケティング能力」が武器となり、人生を切り拓く糧となっていきました。

また、そのジャガー・ルクルト社の社長は経営者としても非常に素晴らしい人で、自社で働く社員全員に分け隔てなく接していました。掃除のおばさんだろうが、庭師のおじさんであろうが、工房で働いている時計師であろうが、誰にでも挨拶をして、話をしながら握手を交わします。工場を含めて1000人以上の社員が、この社長の謙虚な姿勢に感動し、働くモチベーションを上げていました。上に立つ人物とは、かくあるべきもの。「人間力」こそが、リーダーに必要な資質なのだと痛感しました。

女性マネージャーへの3つの提言

さて、冒頭の「女性マネージャー(課長職)になるために必要とされる資質」についてまとめましょう。今は、私が生き抜いてきた時代と違って、安倍内閣の方針により、女性の躍進が求められるようになりました。これからマネージャーを目指していく女性もいれば、すでに会社によって管理職への道が開かれている30~40代の女性もいるかもしれません。私の経験から、そんな皆さんに提言したいことは3つあります。

森本さんの胸元には、現在、代表取締役社長を務める株式会社ココミーユが販売するベビーパールのネックレスが。

(1)「武器力」
まずは、自分なりの「得意分野」をつくってください。言い換えれば、それが「武器」を持つことになります。これは現場で経験したことの延長線になる場合が多いと思いますが、どんな専門的なことであれ、その得意分野を極めていく過程と成果で評価も上がり、同時に、見える世界も広がります。その結果、マネージャーとなる時には、自分の武器から派生する指針のようなものまで身に付くようになります。私の武器は「マーケティング」でしたが、新しく出会うことにも、マーケティング視点から見ることによって正しいジャッジができるようになっていましたし、また、マーケティングをマスターするまでの勉強と努力が自信となり、マネージャーとなって初めて経験することにも真摯に向き合うことができました。

(2)「コミュニケーション力」
マネージャーになれば、立場の上、下、横と、付き合う人の数が変わってきます。しかも付き合わなければならないメンバーには、さまざまなキャラクターの人がいます。マネージャーにはチームワークづくりが要求されますので、どんな人ともきちんと仕事をしていかなくてはなりません。そのためには、コミュニケーション力を磨くことが大切です。それは、その一人ひとりを理解することから始まります。相手の立場になって考え、話し方や接し方さえも変えながら相互理解を深めていく。これによって、本質的なコミュニケーションが成り立つことを覚えてください。

(3)「人間力」
マネージャーになるとチームとしての成果をアップさせていくことが求められます。そのためには、メンバー一人ひとりのモチベーションを上げていくことを考えていかなければなりません。そこで重要となるのは、謙虚な姿勢です。肩書きを振りかざしても、メンバーは反発するだけです。部下と同じ視線で向き合い、心を開いて話をしながら、部下を大切にする。これを忘れないようにしてください。ただし、ビジネスの現場ではさまざまなことが起こりますので、力強いリーダーシップも必要となり、部下に毅然とした態度で臨まなければならない場面も出てきます。そんな時であっても、メンバーとの信頼関係を崩さないようにするためには、チームをまとめるための人間力を磨いておくことが大切です。「謙虚」と「毅然」、このバランスを考えながら、マネージャーとしての「人間力」を培うように心掛けてください。

ここまでが、外資系企業2社で学んだ「マネージャー」として大切なことです。この後、私はさらに外資系企業2社で、部長、事業部長といったポジションを経験しますが、そこで学んだことは、次回、お話したいと思います。

森本道子(もりもと・みちこ)
株式会社ココミーユ 代表取締役
男女雇用機会均等法の施行前である1983年に大学を卒業。日系大手食品会社に就職した後、日系企業2社に勤務。慶應義塾大学ビジネス・スクールにて経営学のMBAを修得した後、「ジャガー・ルクルト」や「オメガ」といったグローバルな時計ブランドを扱う外資系企業4社にて、マネージャー、ディレクター、事業責任者として活躍。2013年に長年の夢であった起業を目指して独立、日本初のベビーパール専門のジュエリーブランドを提供する株式会社ココミーユ(http://coco-mille.co.jp/)を設立。代表取締役社長として現在に至る。