なぜ、宇治茶を売りに行かないのか?

だから、事業は一度決めたら途中下車できない。例えば、うちでは10年前から観光事業をやっていますが、やはり時間はかかります。始めたのは宇治茶も「眺めてもらって、カネを落としてもらい、帰ってもらう」時代に来ているからです。今は宇治茶を売りに行ったらダメ。買ってもらうだけでもダメ。それはもう通用しないのです。

私は商売では一切手形を出していません。すべて現金決済です。しかもむやみに事業も拡げない。お金のあるだけ、銀行が貸してくれるだけの範囲で仕事をしています。

資産運用についても親父は、自分では株をやりませんでした。それはお茶に相場があったからです。お茶自体が、時期によって上がったり下がったりした。だから、資金的にも株を考えている余裕がなかったんです。むしろお金があったら、お茶で勝負したらいいということです。だからこそ、万が一のときのためにも、私たちの代で「資本を蓄積しよう」がある社是を作った。こんな言葉を入れた社是は、ほかの会社にはないでしょう。

福寿園には200年以上の歴史があるわけですが、やはりサバイバルできた一番の要因は、その時代に価値あるものを提供してきたからです。目先が利くというよりも、その時代に存在価値ある企業として生きてきた。私が何かを判断する際も、こうした歴史が一番参考になります。

私のところには今も様々な会社からビジネスの誘いがやってきます。では、そのときの判断基準とは何か。やはり会社を存続させるということです。それは死守しなければなりません。そのために、先行して何らかの備えをしておく。だからこそ、「今日の利益のためよりも、明日の利益のために何をしたか」が一番なのです。それは歴代の経営者たちも実践してきたことです。自分だけのためにするのではなく、次の時代のために何をするのかが常に念頭にある。