「人間性が出る」シンクロの怖さ

ロンドン五輪では、日本選手は出場することが目標だった。正直、メダル争いは厳しい状況だった。でも、今回は違う。メダルを獲得しにいく。

「私は、選手たちに、本当のオリンピックの醍醐味を味あわせてあげたいんです。最後はハッピーエンドじゃなかったら、失敗したら、ストーリーが完結しないじゃないですか。だから、成功したいんです。そのお手伝いができることが、コーチ冥利なんです」

井村HCの指導の特徴をいえば、「心のトレーニング」も大切にするということである。「人間力」を磨くといってもいい。熊本地震に関連し、井村HCは「私たちに何ができるか考えよう」と選手たちに声をかけている。

「あの子たち、日々の練習が苦しくて、幸せとか感じていないでしょ。でも、よく考えれば、シンクロができる私たちってすごく幸せなことなんです。こういうこと(地震)を目にしたら、私たちは、これ(シンクロ)だけやってていいのって考えなくちゃ」

大会中、井村HCも選手たちも義援金の募金活動を手伝った。

「(被災地のことを)考える、そういうあたたかさがあることが、大事なんだなと思います。シンクロ選手として、何かを表現しているとき、人間性が出るんです。人間性が見えるのが、シンクロのこわさなんです。だから、(被災地の)そういうことも考える人間であってほしいと思っているんです」

メダルゼロに終わったロンドン五輪の雪辱となるか。リオ五輪でのメダル獲得に向け、井村HCと選手たちにとっての、のるかそるかの大勝負がはじまる。

松瀬 学(まつせ・まなぶ)●ノンフィクションライター。1960年、長崎県生まれ。早稲田大学ではラグビー部に所属。83年、同大卒業後、共同通信社に入社。運動部記者として、プロ野球、大相撲、オリンピックなどの取材を担当。96年から4年間はニューヨーク勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。日本文藝家協会会員。著書に『汚れた金メダル』(文藝春秋)、『なぜ東京五輪招致は成功したのか?』(扶桑社新書)、『一流コーチのコトバ』(プレジデント社)など多数。2015年4月より、早稲田大学大学院修士課程に在学中。
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