「どこに、そんな女性的な部分が隠れているのか」

鈴木氏と交流のあるマーケティングライターの牛窪恵氏。内閣府「経済財政諮問会議 政策コメンテーター」も務める。

私は仕事上、多くの経営者にお会いしますが、鈴木さんは本質的に他の経営者と異なるという印象を持っていました。娘ほどに年の離れた私が言うのは大変失礼にあたりますが、その風格といい、話し方といい、鈴木さんは極めて男らしいジェントルマンです。ところが、お話をしていると、外見のイメージとは異なる、女性のような繊細でやわらかい感性が垣間見えることがありました。

「どこに、そんな女性的な部分が隠れているのだろう」。ふと思ったものです。

もしかしたら、たくさんのお姉さんに囲まれて育ったことも関係あるのかもしれません(編注:鈴木氏は九男。上に6人の姉がいたといわれる)。

とりわけ男性経営者は「過去」「実績」に基づいた判断で、自社の事業で進む道を決めることが多いです。よくも悪くも、自分自身の成功体験を重視する傾向があります。

しかし、鈴木さんはそうした経験則に基づいた決断はあまりしません。実績をベースにしたほうがリスクは少ないはずですが、鈴木さんは常に新しいことにチャレンジします。

よく知られていますが、鈴木さんの考え方はPOSに代表される仮説検証です。まず、自分で全く新たな仮説を立て、それを売上など後から顧客の動向から検証し、修正していく。重視するのは、「過去の顧客(データ)」より「明日の顧客」です。

女性的感性だから実現した「ブルーオーシャン」

前例のないことに挑むので、反対にあうことも珍しくありません。でも、時代と顧客が変化しているのだから、自分も常に変わらないと死んでしまう。そんなこともよくおっしゃっていました。覚悟を決めたら、思い切って飛び込む。そんな度胸の良さも、ある意味、女性的な感性だと思うのです。

セブン-イレブンを日本で始めようとしたとき、小売業の専門家や学者、マスコミから「うまくいくはずがない」と批判されましたが、コンビニは今や不可欠な存在になりました。

おでん、ドーナツなど、今ではどのコンビニにもある商品を他社に先駆けて企画・発売したのは、鈴木さんらが率いるセブンでした。「これは絶対儲かる」といった確証が得られなくても女性的なユーザー目線に立った気付きやアイデアを武器にして、まだ世の中にないモノやサービスを手がける天才的なイノベーターでした。

マーケッターの端くれとして言えば、いわゆる「ブルーオーシャン」はそうした他人が目をつけていないモノに価値を見いだす「目」のある経営者やリーダーでないと手に入れることができません。