過剰な“原油安”の影
原油相場は2014年夏をピークに急激に下落した。一時、1バレル=100ドルを上回って推移していたが、今年2月11日、ニューヨーク市場のWTI先物価格は2003年5月以来となる26.21ドルの安値を付けた。
「原油はコモディティなので基本的には需給関係で価格が決まる。一昨年以降、世界の石油需要増のペースに波はあるものの、供給過剰状態がずっと続いて、原油安を引き起こしてきた。その要因は3つ挙げられる。1つがシェールオイルを中心としたアメリカの生産拡大。次にサウジアラビアの原油減産回避とイランの市場復帰。そして、上海株式市場の混乱に象徴される中国経済への不安だ」
こう説明するのは、日本エネルギー経済研究所の小山堅常務理事・首席研究員。小山氏は、原油安に導くものとして、これらのほか金融市場との関連性も指摘する。年明けからの世界経済減速懸念で資金が国債・円などの「安全資産」に流れており、石油はリスク資産なので売られたという。
原油安は、あらゆる意味で日本経済に影響を与える。資源の乏しい日本は、国内での生産活動、人々の日常生活に必要なエネルギーの調達をほぼ輸入に頼っている。なかでも、東日本大震災以降の原子力発電の停止に伴い、発電の約9割を火力発電に頼ってきた電力供給はその最たるものだ。石油火力が占める割合は大きくはないが、最大(4割強)のLNG火力については、燃料のLNGが石油価格連動で値決めされるので、原油価格が上昇するとLNG価格も上昇して悪影響を及ぼす。すべての原子力発電が停止した2014年度は、追加調達で必要となった化石燃料費が3.6兆円、1日あたり100億円にまで及んだ。原油安はこの負担を軽減するプラスの側面もあるが、過剰な原油安はリスクも孕んでいる。
行き過ぎた原油安により、米国のシェール企業大手7社の最終損益が約4兆円の赤字に落ち込むなど、新たな原油採掘への投資が進まず、安定的な原油生産が進まなくなる可能性も否めない。「既存の油田は自然に衰退し、何もしなければその分だけ供給力が落ち込んでいく中、世界の石油需要は、原油価格が高いときも低いときも、毎年平均して120万バレル増えている。すると、2020年までの5年間で600万バレル増加する。自然の減退を補い、需要の増分を満たす供給拡大が必要」と小山氏は語る。皮肉なことに、過剰な原油安により、原油生産が落ち込めば、必要な量が確保できず、将来的には逆に原油価格の急騰にみまわれることもありうるのだ。