アメリカで芸能プロダクションの代わりに存在するのは、エージェント、あるいはその組織であるエージェンシーである。これは芸能人の窓口となる代理人であり、成功報酬の10~15%を受け取ることで成立するビジネスだ。芸能人は、このエージェントと個々に契約して仕事を進める。つまり、アメリカの芸能人とは、被雇用者ではなく雇用主なのである。

両国の違いは、「バーター」と呼ばれる抱き合わせ商法においても見られる。

芸能プロダクション単位で仕事が動く日本では、大手に所属すればするほど有利となる。たとえばドラマでは、主演俳優と抱き合わせで若手俳優を4番手や5番手の役で出演させることが一般的だ。同じプロダクションの俳優を使うために、原作にはない役をドラマでわざわざ創らせることも珍しくない。いわゆる“ゴリ推し”だ。大手のプロダクションは、こうして次世代の俳優を成長させていく。

抱き合わせ商法は、アメリカでも珍しくはない。エージェンシーは、俳優だけでなく映画監督や脚本家も抱えており、それらをひとつのパッケージとして映画会社に売り込むことが常套化している。俳優としては、大手のエージェンシーと契約すればするほど有利となる。

ただし、これらにおいても主導権を握るのは、日本は芸能プロダクションだが、アメリカは芸能人である。

日米では雇用関係が逆転している

被雇用者である日本の芸能人と、雇用主であるアメリカの芸能人――この違いは、活動の自由度において大きく顕れる。日本では独立することにリスクがともなうが、アメリカではエージェンシーとの契約はいつでも打ち切れる。あくまでも主導権が芸能人側にあるのがアメリカ、芸能プロダクション側にあるのが日本である。

この差異は、組合の有無や公正取引委員会の機能などの社会的基盤に依るところが大きい。アメリカではエージェンシーと契約する前に、必ず組合であるSAG-AFTRAに加入しなければならない(※1)。 最低賃金なども組合によって保証される。しかし日本の芸能界には、声優が中心となる日本俳優連合を除けば、主だった組合はない。

またアメリカの公正取引委員会は強い効力を見せるが、日本のそれが芸能界に対して影響力を示すことはない。芸能人が独立してその活動を妨害されれば、本来それは独占禁止法の「不当な取引妨害」に抵触する。実際に日本の公取委に問い合わせたところ、「独占禁止法はあらゆる事業体が対象になります。参入妨害や排除など公正な競争を妨げる行為があった場合には、当然、対象になります」との回答も得たが、適用される気配は一向にない。