ジョブズも実践、「いま」に集中する心の平穏の保ち方

マインドフルネス心理療法は、近年欧米でもIT企業を中心に大流行している。火付け役はアップルの創業者スティーブ・ジョブズだともいわれる。これは、裏を返せばITのような資本主義の最先端をいく仕事をしている人ほど、心のバランスを保つのが難しいということなのかもしれない。

小玉教授の勧めるもうひとつの方法が、レジリエンスを強化すること。レジリエンスとは「逆境にさらされても心が折れず、それを克服していける心の強さ」あるいは「たとえ心がひどく傷ついても、そこから回復し正常な状態に戻せる力」のことだ。

「発明王のトーマス・エジソンは、実は失敗王でもあったのだそうです。とにかくあまりに失敗の数が多かったため、彼のスタイルは効率が重視される現代のビジネス界では評価が低いと指摘する人もいます。けれども、私はそうは思いません。そもそも失敗しなければ、この仮説は間違いだったという判断ができないし、次に進めません。失敗なくしては発明なんてできないし、ましてやイノベーションも起こしようがありません。それよりも、私がエジソンを優れていると思うのは、それだけ失敗しながらまったく失敗を怖がっていなかったところです。なにしろ『私は失敗なんてしたことがない。このやり方では電球が光らないという証明を、いままで2万回やっただけだ』と言っている。この楽観性はまさしく強烈なレジリエンスの持ち主といっていいでしょう。

反対に、たった一度の失敗を乗り越えられず、うつになってしまう人もいます。この差は、生来の気質に起因する部分ももちろんありますが、決してそれがすべてではありません。後天的な努力によってレジリエンスを高めることもできるのです」

レジリエンスを努力で強化できるとは朗報だ。草食系男子はこれをきいて、たいへん心強く思っていることだろう。しかし、そのために滝に打たれたり、山にこもって座禅を組んだりとなると、たちまち腰が引けてしまう気もする。

「いえいえ、そんなことをする必要はありません。ある日の昼下がり、私が公園のベンチで本を読んでいると、3歳くらいの男の子を連れたお母さんがやってきました。男の子はブランコに乗りたかったようで、すぐにブランコ乗り場に向かって駆け出した。しかし、途中で足が止まってしまう。男子中学生2人がブランコを独占して、おしゃべりに興じていたのです。小さい子どもにとって見知らぬ中学生は、自分の倍以上も背の高い、たいへん怖い存在です。半泣きになりながらお母さんのところに帰っていきました。そこでお母さんが偉かったのは、直接中学生に『乗せてあげて』と声をかけるのではなく、『お兄ちゃんたちに乗せてってお願いしてごらん』と、その子に自分で交渉をさせたのです。そこで、男の子は再びブランコ乗り場に向かい、泣き顔で男子中学生に向かって『乗せて』と精いっぱいの声を張り上げました。中学生はすぐにどいてくれ、その子は無事にブランコに乗れました。このとき男の子は、目の前の障害を取り除くには『乗せて』と言えばいいのだということを学んだのです」

レジリエンスが弱い人は、このような「経験という貯金」を増やしていけばよいと小玉教授は言う。できれば5歳ぐらいまでに多くの経験しておくのが望ましいが、成人になったからといって手遅れということはない。年齢や状況に応じて求められる役割や責任は変わってくるので、それに応じた経験を増やせば、レジリエンスは必ず強化できるそうだ。