原子力発電は温暖化を防ぐ人類共有の資産
今年の6月、新しいエネルギー基本計画が閣議決定された。この基本計画は、経済産業省が中心となってとりまとめたものであり、2030年までに、現状38%である自主エネルギー比率(エネルギー自給率に加え、自主開発資源も勘案)を70%程度に上昇させる、34%であるゼロ・エミッション電源比率(原子力や再生可能エネルギーによる発電)を約70%に引き上げるなど、意欲的な内容を盛り込んでいる。
ゼロ・エミッション電源の目標からもわかるように、新しいエネルギー基本計画の眼目の一つは、低炭素社会の実現にある。ここで問題なのは、同じ低炭素社会の実現をめざしながら、今年3月に発表された小沢鋭仁環境大臣の試案(「地球温暖化対策に係る中長期ロードマップの提案」)と、今回のエネルギー基本計画の平仄(ひょうそく)があわないことである。小沢試案は、20年までに、日本国内で二酸化炭素(CO2)排出量を1990年比25%削減することを打ち出した。
一方、エネルギー基本計画は、20年時点の数値目標は明示せず、国内でCO2排出量を90年比約30%削減するという30年時点の数値目標を掲げただけであった。個人的な推測であるが、その背景には、エネルギー基本計画が想定する20年のCO2排出削減目標は小沢試案の水準をかなり下回る、それが公表されると経産省・環境省間の閣内不一致が表面化する、そのため経産省は20年の数値目標を明示しない方針をとった、という事情が存在したと思われる。
ただし、この小稿は、エネルギー基本計画と小沢環境大臣試案とのあいだの不一致をあげつらうためのものではない。逆に、ここでは、両者の一致点に光を当てる。取り上げる一致点は、エネルギー基本計画と小沢試案のいずれもが、低炭素社会実現のための中心的な手段の一つとして位置づけた原子力発電の拡充である。
原子力発電に関して、エネルギー基本計画は、20年までに九基の新増設と約85%の設備利用率達成、30年までに14基以上の新増設と約90%の設備利用率達成を、それぞれ打ち出した。しかし、この方針に対しては、国民のあいだに、「本当に多数の原子力発電設備を新増設できるのか」「設備利用率をそこまで高めることができるのか」などの疑問が存在する。
たしかに、9基ないし14基以上の新増設と85%ないし90%の高利用率を実現することは、容易ではない。しかし、ここで銘記すべきは、原子力発電の拡充なくして低炭素社会の到来はありえないことである。原子力発電は、もはや、電力会社の収益のための道具ではない。好きか嫌いか、推進か反対かの立場の違いを超えて、それなしには地球温暖化を止めることができない、他に選択肢のない人類共有の資産なのである。