まだ主役にはなりえない再生可能エネルギー

それでは、どのようにして日本で、原子力発電所の新増設と利用率向上を実現するのか。そのためには、早急に、次の2つの方策を講じる必要がある。

第一は、ゼロ・エミッション電源の2つの柱である原子力発電と再生可能エネルギーによる発電とのあいだに優先順位をつけ、20~30年に向けては、原子力発電の拡充こそが低炭素社会実現にとっての最重要事項である点を明確にすることである。

表1:日本の電源構成の変化
表を拡大
表1:日本の電源構成の変化

表1は、07~30年における日本の電源構成の変化を示したものであり、新しいエネルギー基本計画を承認した今年6月の総合資源エネルギー調査会総合部会・基本計画委員会合同会合で配布された資料に含まれていたものである。この表からわかるように、再生可能エネルギー等による発電の設備容量は23年間に約2.4倍になり、構成比も21%から38%へ上昇する。しかし、肝心の発電電力量についてみると、再生可能エネルギー等の比率は、30年度においても21%にとどまる。これは、再生可能エネルギーによる発電の設備利用率が、太陽光発電や風力発電の事例を想定すればわかるように、きわめて低位にとどまるからである。一方、07~30年の23年間に原子力発電の設備容量は約1.4倍になり、30年度の発電電力量における比率は53%に達する。再生可能エネルギーによる発電の設備拡充に大きな力を注ぐにもかかわらず、30年度時点でもゼロ・エミッション電源の主役は、再生可能エネルギーによる発電ではなく、あくまで原子力発電なのである。

表2:主要なCO2削減対策の累積投資額と削減効果
表を拡大
表2:主要なCO2削減対策の累積投資額と削減効果

表2は、主要なCO2削減対策の30年までの累積投資額と削減効果を一覧にしたものであり、資料の出所は表1と同一である。この表の「A÷B」の欄からわかるように、CO2排出削減量1トン当たりの必要投資額は、再生可能エネルギーが43万5000円に及ぶのに対して、原子力発電は3万5000円にとどまる。CO2排出削減に関し原子力発電の費用対効果は、再生可能エネルギーのそれの12倍以上に達するのであり、この面からみても、ゼロ・エミッション電源の主役はあくまで原子力発電なのである。

第二の方策は、原子力発電所の立地についてだけでなく、運転についても地元に利益を還元することである。

日本では、現在、排出権取引制度や地球温暖化対策税を導入しようとする動きが急であるが、その基礎にあるのは、排出するCO2に値段をつけるという考え方である。この考え方に立つならば、逆にCO2の排出量を削減した場合には、その分だけ利益が還元されてしかるべきである。07年の中越沖地震で東京電力の柏崎刈羽原子力発電所の運転が停止したとき、一つの原子力発電所がストップしただけで、日本全体のCO2排出量が2%以上も増大した。

この事実は、原子力発電所が、CO2排出削減にいかに貢献しているかを、如実に示している。したがって、原子力発電所の運転により日本全体のCO2排出削減に貢献している地元には、立地にともなう助成措置とは別に、CO2排出削減が生んだ利益の一部が還元されてしかるべきなのである。これは、CDM(クリーン開発メカニズム)の国内版とでもいうべき方策である。

原子力発電所の新増設や設備利用率向上が困難に直面している要因の一つは、安全性の問題とは相対的に区別される社会的リスクの大きさにある。現行の立地に重点をおく助成措置だけでは、社会的リスクの問題を解決することができない。現行の助成措置には、(1)設備投資の変動にともなう助成額の変動、(2)原発非立地周辺市町村への助成額の不十分性、などの問題点が存在するからである。