原爆投下は「正義」か?
それとも「人種差別」?「ホロコースト」?

アメリカはかつて戦争で核兵器を使った唯一の国であり、原爆が有色人種の人びとに落とされたという事実に人種差別の要素が見いだせると主張する批評家もいる。……一部の研究者は、広島と長崎における核のホロコーストは第2次世界大戦の最後の一撃ではなく、冷戦の最初の一撃だったと言及し……日本は1945年の夏にはすでに敗退の色濃く条件付きの降伏を準備しようとしていたが、トルーマン大統領は、これを無視して、彼の新しい残酷な兵器への使用をついに決断したと述べ、それは日本を降伏させるだけでなく、ソ連を脅すためでもあったと述べている。

アメリカの教科書は原爆投下について大きくページを割いている。写真の『アメリカン・オデッセイ』では本文のほかに「Case Study」として4頁をあてて、原爆投下の背景や賛否両論の意見を紹介し、生徒に考えるきっかけを与えている。

「原子爆弾の使用は避けられなかったのか?」。……アメリカの指導者はできる限り早く戦争を終わらせたかった。ソ連を威圧することは、日本に対する原爆投下の「ボーナス」であったかもしれないが、ソ連の行動に影響を与えることは決して破滅的な意思決定の主たる理由ではなかった。アメリカの軍事戦略家は、常に原爆が使用可能になったらすぐに投下することを想定していた。その瞬間は、1945年8月6日にやってきた。第2次世界大戦の原爆投下の決定についての疑念と自責の念は、アメリカ人の良心を悩ませ続けている。(『アメリカン・ページェント』本文枠外コラム)

どこが違う? なぜ違う?
「本文以外の枠で、『戦争を終わらせるために、原爆投下は必要だったかどうか考えなさい?』『日本に原爆を使用すべきだったか、否か?』など、ほとんどの教科書で、生徒に考えさせるための問題提起や討論のための素材を掲載しています。『人種差別』『核のホロコースト』など教科書に載せられた政府見解とは異なる多様な見解からは、決してアメリカ人のすべてが原爆投下を肯定しているわけではないことが伝わってきます」(大島氏)

出典:『詳説日本史』山川出版社.David M. Kennedy, Lizabeth Cohen, Thomas A. Bailey.The American Pageant. Houghton Miffl in Company. Gary B. Nash. American Odyssey.Glencoe Division of Macmillan/McGraw-Hill Publishing Company.

東洋哲学研究所研究員 大島京子
青山学院高等部、東洋英和女学院中高部、創価大学の非常勤講師等を経て現職。論文・著書に「日米比較──歴史教科書の中の原爆投下」(『平和研究』)、『世界の歴史教科書──11カ国の比較研究』(明石書店)
(田端広英=構成 遠藤素子=撮影(教科書) AFLO=写真)
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