営業とは、人と話すこと。だからこそ、ごく小さな会話力の差が成績を分ける。各営業のトップセールスにそのコツを聞いた。
2012年、マンション販売のトップが入れ替わった。前年王者の3菱地所レジデンスから、野村不動産が初めて首位の座を奪ったのだ(供給戸数)。この躍進を支えるエースが望月智史さん。05年の入社以来、販売畑を歩み、常に上位安定の成績を残してきた。
望月さんが扱う「住宅」は、高額であるうえ、大半の人には一生に一度の買い物である。それゆえお客の胸中には、購入までに様々な感情が去来する。
「多くのお客様は、モデルルームを見て『これいいな』と感情で購入を判断し、買った自分を理屈で納得し、もう一度、感情で悩みます。そこに寄り添って支え、アドバイスするのも役目です」と望月さんは説明する。
揺れ動く顧客感情の変化と向き合うため、こだわるのは話術よりも中身。「目の前のお客様にとって、必要な情報提供を心がけます」。それは購入前であれば、周辺物件と比べての優位性、ローン返済の仕方、将来の売却を考えた際の資産価値などだ。お客が気にする支払額は愛用の「金融電卓」で具体的な金額を示す。時には会話に潜む“真意”も探るという。
「例えば総面積について、お客様が『最低でも90平方メートルは欲しい』と言われた場合、物件で最も広いのが80平方メートルだと、あきらめてしまう営業マンもいる。そうではなく、なぜ90平方メートルが必要なのかを掘り下げてうかがいます。すると『大切にしている大型ソファを入れたい』とか、『友人宅のパーティに招かれたときのLDKが21畳だった』と理由が返ってきます。つまり、お客様が求めているのは総面積ではなく、リビングの広さだとわかるのです」
そんな望月さんにも、実績を挙げられず思い悩んだ時期がある。そのとき、上司が指摘してくれたのが「知識を駆使して自信をもって話すのが、お客様によってはマイナスに映ることもある」ということだ。