IT活用で社員ごとの採算性まで計算

「私は従業員満足と顧客満足はイコールだと考えています。私の宝はスタッフであり、社員が少しでも幸せな人生を送ることが経営の目的なんです」

大串にとって社員は家族も同然である。東日本大震災の時には売上が激減したが、大串はすぐに「社員の生活は守る」と宣言し、リストラどころか一時帰休も減給も行わなかった。計画停電などで営業時間が短縮されてしまう分、臨時で閉店時間を延ばし、勤務時間を確保して給料を減らさないようにした。営業時間を延長するかどうかは各店舗に任せたが、全店が延長を実施。スタッフのやりくりが困った場合は、自店舗から他店舗に助っ人に行くなど会社全体の一体感が増し、2011年3月でさえ、単月で営業黒字を確保したという。

他社の経営者がうらやむほど大串と従業員たちの心が通い合っているようだが、決してなあなあの「お友達」組織ではない。

オオクシでは全店舗にPOSレジを導入し、ネットでつないで顧客の性別、年齢、カットパターン(126通りに分類)、担当スタッフ名などの情報を蓄積、顧客1人当たりのリターン率やスタッフごとの顧客の平均リターン率などがリアルタイムに分かる。あるスタッフが特定のカットパターンでカットしたときのリターン率なども分かるので、そのスタッフの得意、苦手なカットパターンも割り出せるのだ。これによって、苦手を克服するような効率的なトレーニングも行われている。

IT活用だけでなく、アンケートハガキも全ての来店客に送付して月単位で集計している。8割は好意的だが、中にはクレームもあり、深刻なクレームには店長が直接、顧客の元へ謝罪に出向き、スタッフ本人もアンケートのコピーが渡される。名指しでクレームを受け、ショックで店を辞める人もいるという。

大串は店の営業が終わる夜9時頃には各店舗を回り、ミーティングに参加する。そこでスタッフと対話し、クレームなどで落ち込んだ人がいれば相談に乗って励ます。

その日のうちに全店舗から上がってくる業務報告書に目を通して、いい話があれば「グッドマーク」を押して、一筆添える。毎日、仕事が終わるのは夜中2時過ぎだ。

ITの活用で、スタッフごとの採算性まで数値化でき、給与明細には支給額と売り上げ実績の収支が記載される。プラスならばいいが、「マイナス1万円」とあったら、その月は会社に1万円分の迷惑をかけたことになる。

シビアに数字を示すものの大串は「人を動かすのは数字ではなく、“情”です」と語る。

「データはスタッフがお客様にもっと喜んでもらいたいと努力するための発奮材料です。スタッフにそう思ってもらうには、私が汗をかくこと。毎日、地道に私の思いを社員に伝え続けることです」

理美容業界では歩合制の給与で、社会保険もないことが多いが、オオクシは完全固定給制度で、社会保険も完備。採算性が低いからと給与を下げるわけではない。