これからの時代、重要なのは「記憶の使い道」

池谷裕二さん

【岩波】だとすると、これからの時代、記憶力はどうあるべきなのでしょう?

【池谷】重要なのは、情報を覚えているかどうかではなくて、情報の「使い道」です。記憶って、円周率10万桁を覚えて世界一になるとか、そういうコンテストで優勝するためのツールではありません。記憶の本質は「未来の自分に贈るプレゼント」です。将来、自分の役に立って初めて記憶としての意味がある、と。

今は漢字の書き取りを100回して覚える、といったことに時間を費やさなくていい時代です。だったらその空いた時間を、もうちょっと有効な未来設計に当てたほうがいい。たとえば、記憶の積み立て方とか、活用の仕方を考えて、過去の経験を将来に生かしましょう。記憶の使い道しだいで、自分の個性を発揮できる場はより増えていくと思うのです。

【岩波】「未来」と「記憶」とは、なんだか反対の考え方のような気がしますけど、そうではないんですね。

【池谷】たしかに「記憶」というと、「過去」のイメージがありますよね。でも実際には、未来と密接に結びついているもの。その証拠に、記憶を司る脳の海馬がダメになると、うまく物事を覚えることができなくなるだけでなく、未来設計もできなくなってしまいます。 たとえば、「来年の誕生日、あなたは何をしたいですか?」とたずねても、朝からデートをして、まずあそこのお店に行って、次にどこのお店に行って……というような、詳細な描写はできません。

「もし来年の夏、海に行ったらどうしますか?」と聞かれたら、普通の人なら「白い砂浜には爽やかな風が吹いていて、椰子の実がなっていて、空は真っ青で、そこで赤い浮き輪でパチャパチャと泳いでいる」といったふうに答えるわけですが、海馬がダメになってしまった人は、「海に行って泳ぎます」くらいの大ざっぱな返答しかできない。

【岩波】そんな病気があるんですか!

【池谷】はい。過去の記憶があるにもかかわらず、それを活用できなくなってしまうのです。