その要因には、製造拠点として台頭してきた韓国、台湾、中国などのアジア諸国の企業と「組む」戦略が欠けていたということや、デジタル技術の進化の波を捉えきれなかったことなどがあげられる、と伊藤氏。その結果……。
「パソコンやスマートフォンのようにアメリカ企業が開発・提案した商品は、米国+アジアの製品が世界市場を席巻し、日本がいち早く開発・提案した液晶テレビやDVDプレーヤーは、日本から買ってきた技術でよりコストパフォーマンスの高い製品をつくった韓国・台湾・中国企業が世界市場を独占したのです」(伊藤氏)
そして伊藤氏は日本企業のジリ貧化はそんな戦略ミス以外に、組織そのものが“うつ状態”にあることも影響しているのではないかと指摘するのだ。
「なぜ日本のメーカーにアップルのiPhone、iPadのような画期的な商品を生み出すことができなかったのか。iPhoneはしょせんNTTドコモのiモードの模倣だ、といった声も聞きますが、それは負け惜しみだと私は思います。日本にはアップルのような、以前に存在した商品カテゴリーに収まらない、新ジャンルを提案する土壌がもはやないのです」(同)
東京大学の藤本隆宏教授は日本企業の多くが、リスクのある国内向けの戦略投資を避け、逃げの海外投資を除いて内部留保を続ける姿勢を「組織的うつ病」と定義。伊藤氏はこの藤本氏の定義に独自の解釈を付け加えている。
「企業が利潤追求するのは当然ですが、現状は売り上げ・利益を確保する、シェア・株価を維持するなど“数字”ばかりに腐心し、またコンプライアンスや社内ルールで社員を縛り付けているようにも見える。さらにそうした職場になじめず独立してユニークな発想をする技術者も多いですが、大企業はそうした外に出た元社員を認めようとしません。協業すれば、斬新な商品をつくりだせるのにムラ社会的な閉鎖体質のため、技術は宝の持ち腐れになることもある。自社にない優れたスキルを積極的に採用する。例えば、アップルはiPhoneの製造の一角に新潟・燕三条の職人を起用して製品の光沢感を出すことに成功しました。ベンチャーや職人の技術を知らなければ、iPhone的な新アイデアが出る可能性は低いです」