資格取得は始まりにすぎない。「どう使うか」という視点が重要だ。前提とすべき発想は、「この資格なら年収いくら」ではなく、「この資格でどこまで稼げるか」なのだ。
輸出の不振で、電機・製造業などで大規模な社員の整理解雇が噂されている。肩叩きにあった当人は「なぜオレなんだ」と文句を言いたくなるだろうが、あなたは会社の業務に貢献する努力をしてきただろうか。会社に「ぶら下がる」だけではなかったか。
いま資格講座が盛況だという。だが、仮に難関資格を取得したところで、資格を持っているだけの「ぶら下がり族」を企業は引き止めない。価値があるのは、資格を利益に変えられる人材だけだ。
「資格があるからという理由ではないでしょうが、会社が配置転換を進めるうえで判断材料にはなったと思います」
そう語るのは、アクサ生命保険の榎並太平(えなみたいへい)氏だ。彼は大学院時代に「CFA(米国証券アナリスト)」のレベル1に合格。2005年に入社してから再び受験勉強を始め、昨年、レベル3に最終合格した。
CFAとは「Chartered Financial Analyst」の略。米国発祥の国際資格で、金融関連では最難関の資格ともいわれる。レベル1と2は択一問題だが、レベル3は半分が記述問題。いずれのレベルも試験はすべて英語。国内の資格保有者は約1100人と少ない(2009年1月現在)。資格の取得には投資分析関連で4年以上の職務経験が必要だが、試験は先に受けられる。就業4年未満の榎並氏もまもなく有資格者となる。
現在は保険商品の設計を行う収益管理に所属しているが、自ら志願し、今年7月からは資産運用を行うALM(アセット・ライアビリティ・マネジメント)部に異動することとなった。
「資格の知識より現実は進んでいると思いますが、それでも資金運用の全体像がわかりました。勉強も面白かったので、今度は実際の仕事にしてみたいと考えたのです。CFAを取っていなければ、手は挙げなかったでしょうね」
資格を取るだけでなく、進んで使いこなしていこうという積極的な姿勢が評価されたことは間違いない。また、現在は前の部門に直結する「アクチュアリー(保険数理人)」を勉強中。この資格は保険料率などを計算する専門資格であり、やはり難関。有資格者はわずか1212人(08年3月末の日本アクチュアリー会正会員)。これが取得できれば、保険会社におけるおカネの入り口(保険料)から出口(投資)まで網羅できることになる。榎並氏で注目したいのは、このように実務と資格との密接な関係性である。