具体例を紹介しましょう。乾杯のとき、いまどきの若者には「とりあえずビール」は通用しません。博報堂の「若者研究所」では、約100人の大学生に研究員を務めてもらっています。調査の打ち上げで、私が「まずはビール」と全員分の飲み物を注文しようとすると、空気がざわつきます。理由を尋ねると、「どうして他人の飲み物を勝手に決めちゃうんですか」と憮然とした表情でいわれました。
いち早く乾杯をしようと、率先して動くのは「意識が高い」「イタイ」として、若者には嫌われます。時間がかかっても、それぞれに注文を確認するのが、彼らのやり方。これは若者の酒離れの一因になっているはずです。
若者は、アルコールのなかでも、特にビールを飲まなくなっています。飲酒には「なれ」の要素がありますが、特にビールはそれが顕著ではないでしょうか。私は初めてビールを飲んだとき、「うまい」よりも「苦い」と感じたことをよく覚えています。宴席などで繰り返し飲むうちに、独特の風味の虜になりました。
酒類全般についても同じことがいえます。かつては酒の味をおぼえる前に、半ば強制的に飲まされることがありました。いまは飲みたくない人に強要することはありません。ましてや未成年の飲酒は御法度です。大学のサークルでも、1年生が多い「新歓コンパ」は居酒屋ではなく、カフェなどに場所を移し始めています。居酒屋側も、全員に身分証明書を提示させるなど、未成年の飲酒を厳しく取り締まるようになりました。以前にはあった居酒屋との接触機会が失われているのです。
また「空気を読む」という特徴があるため、人を酔わせたり、自らが泥酔状態になったりすることを避ける傾向があります。周囲に迷惑をかけたくないという気持ちが強いからです。このため彼らにとっては、「ほろ酔い状態が長時間持続する」という飲み方が理想的。飲み放題といった居酒屋のサービスには、あまり魅力を感じません。