一方、会社にとって歓迎されない社員とは、事業を縮小・廃止した部門の社員や、「年功に甘んじ、守りに徹してきた管理職世代」と中村氏は言う。
「変化の激しい時代では彼らの過去の経験は重荷でしかありません。高齢になるとどうしても話が説教じみてくるし、自分の価値観を押しつけたがるもの。とくに秀でたスキルもなく、過去の自慢話に終始するような人を残してしまうと、後輩や若い人の成長の障害になります」
「管理職ならできます」と言う人に居場所はない。親会社に仕事がなければグループ会社で再雇用されるか、場合によっては取引先を紹介されて再雇用されることになる。今までとは違う慣れない仕事に従事しなければならないうえ、給与も下がる。中村氏は「大企業から中小企業に転職するのと同じ。給与は5割以下に下がってもおかしくない」と指摘する。
55歳からのスキル磨き
そんななか、再雇用後もやりがいのある仕事に就き、プライベートも充実しているのがキヤノンの高橋正義氏(62歳)だ。現在、同社のCKI(知識集約型業務に従事するスタッフの革新活動)の社内コンサルタントとして活躍している。
転機は55歳のとき。入社以来、技術者として映像事務機部門で複写機の設計と研究開発一筋でやってきたが、CKI発足に伴い、上司に異動を打診された。CKI活動とは、個人と組織を活性化させ、生産性の向上を図る活動だ。具体的には、専任の社内コンサルタントが開発部門をはじめ課やチームを訪問。組織や個人の仕事の見える化を促し、課題の抽出と解決に向けて働きかけを行うのが仕事だ。
高橋氏は「もともと人と接するのが好きですし、人を育てる仕事に興味があった」と言うが、技術畑一筋の世界からは職種転換に等しい人事だ。ファシリテーションやコーチングのスキルも習得しなければならなかったし、部署の立ち上げから関わるという苦労もあった。しかし定年を迎え、迷わず現在の職場での再雇用を選んだ。
「CKI活動を通じて、消極的で受け身だった人が自らどんどん意見を言うようになる。議論を通じて職場の信頼感が生まれ、目標に向けて互いに支え合うことが可能になります。そうした人やチームが成長していく場面に携わる仕事に、やりがいを感じています」(高橋氏)