あらゆる競争の場に適用できる

これを見た大勢の女性たちは震え上がるとともに、シャキッとなって次からは殺されまいと命令通りに動くようになりました。自分の自慢の妾を斬首されてしまった王は気を悪くしましたが、孫子の能力を認めて採用を決めたといいます。兵を命令に従わせることができないからといって隊長の首を斬るとは、今ならパワハラどころの話ではありませんが、王は孫子の振る舞いと兵法の内容に説得力を感じたのでしょう。

そして呉の将軍となった孫子は20万人規模の柏挙はくきょの戦い(紀元前506年)で兵を率い、勝利を収めています。

孫子の後半生はほとんどわかっていませんが、やはり『孫子』も現代まで読み継がれています。日本では『孫子』は奈良時代から読まれていましたが、戦後はサラリーマンや経営者のビジネス教養としても受容されてきました。「彼を知り、己を知れば百戦殆あやうからず」といった孫子の教えは、確かに戦争だけでなくあらゆる競争の場に適用できる面を持っています。

チャンピオンとチームワークの成功したコンセプト
写真=iStock.com/Nattakorn Maneerat
※写真はイメージです

戦闘や勝機の「流れ」

『孫子』は第一章に当たる「計」篇で〈兵とは詭道きどうなり〉、つまり「戦争は相手の意表を突くことを習ならいとする」と述べています。全力でぶつかって勝敗を決するのではなく、相手を騙し、撹乱し、分裂させて敵の勢いを削ぐことが重要だとしています。

そして情勢は常に変化するものであり、その時々の状況に合わせた攻め方を考えることが必要だともしています。「風林火山ふうりんかざん」で有名な一節は、「軍は風のように迅速に進み、林のように静まり返って待機し、燃え広がる火のように侵掠しんりゃくし、山のようにどっしりと腰を据える」ことを指しており、陰陽道おんみょうどうなど東洋思想的な戦闘や勝機の「流れ」を重視してもいます。

「流れ」とは、今も野球好きの方ならよく聞くのではないでしょうか。「こちらのチームに流れが来ている」「攻撃の際のいい流れが守備にも影響をもたらした」などと使われることがあります。同じく戦争にも流れが重要であり、この流れを掴まなければ勝利は得られないとしています。