子どもに人気の商品は下げ、サーモンは上げるくら寿司
さらに興味深いのが、くら寿司だ。同社は9月4日から一部商品の価格を改定する。全国551店舗のうち313店舗では最低価格を115円から110円に引き下げる。
「熟成びんちょうまぐろ」「ねぎまぐろ」「たまご焼き」「ハンバーグ」など、ファミリー層、とりわけ子どもに人気のある商品を中心に価格を下げる。
なお、くら寿司で一番人気の「熟成まぐろ」は今回の値下げ対象ではなく、価格据え置き、または店舗によって価格が上がる場合がある。
新たな商品も加え、最低価格で提供するすしは37品目となり、全すし商品の約4割を占める。
だが、ここで重要なのは、くら寿司が全面値下げに踏み切ったわけではないことだ。「サーモン」「生えび」など33品目については逆に5円値上げする。
原材料価格やエネルギーコストが上昇し、とりわけ円安による輸入水産物の価格上昇などを自助努力だけで吸収することが難しくなったためだ。
値下げと値上げを同時に行う。一見すると矛盾しているようだが、マーケティングの観点から考えれば合理的である。ファミリー客が価格を意識する商品は110円に下げ、「くら寿司なら家族で行っても、それほど高くならない」という印象をつくる。一方、原価上昇の大きい商品では必要な値上げを行い、収益を確保する。
すべての商品で同じ価格政策を取る必要はない。集客する価格と、利益を確保する価格を使い分ければよい。くら寿司の価格改定は、一律値上げから「選択的な価格設定」への転換と見ることができる。
商品によって「価格弾力性」は違う
ここで重要になるのが、経済学やマーケティングでいう「価格弾力性」という考え方だ。簡単にいえば、価格を変えたときに需要がどれだけ変化するかを示す。
価格を少し上げただけで販売数量が大きく減る商品は、価格に対する需要の反応が大きい。反対に、価格を上げても販売数量があまり変わらない商品もある。大切なのは、価格弾力性がすべての商品で同じではないことだ。
日常的に購入し、競合商品との比較が容易な商品ほど、消費者は価格差に敏感になりやすい。一方、独自性が高かったり、強いブランド力を持っていたりする商品では、価格以外の要素も購買を左右する。
物価高が長期化すれば、この違いを見極めることがさらに重要になる。消費者が価格に敏感な商品を一律に値上げすれば、販売数量や客数を大きく落としかねない。一方、価格以外の価値が評価されている商品なら、適正な価格転嫁をしても需要への影響を抑えられる可能性がある。
くら寿司が個々の商品の価格弾力性をどのように分析しているかは公表されていないので断定はできない。ただ、ファミリー層に人気のある商品では最低価格を引き下げ、原価上昇を吸収できない商品では値上げする今回の価格改定は、商品によって価格に対する消費者の反応が異なることを意識した戦略とみることができる。
問われるのは、「値上げするか、しないか」ではない。どの商品なら値上げしても選ばれるのか。どの商品を値下げすれば来店につながるのか。その違いを見極めることが重要になっている。
