「値上げ疲れ」でもう買わない
企業側にも異変が起きている。物価高が始まった当初、食品メーカーや外食企業で評価されたのは「値上げ力」だった。原材料費が10%上がったのに価格を据え置けば、企業の利益は削られる。人件費も上昇している以上、持続的な賃上げのためにも適正な価格転嫁は必要だ。
だが、値上げには限界がある。例えばペットボトル入り緑茶飲料は、7月の平均価格が前年同月比4.8%上昇した。一方、来店客1000人当たりの販売金額は6月に16.7%減、7月にも10%減った。
価格が上がれば、消費者は購入頻度を減らしたり、より安いPB(プライベートブランド)へ乗り換えたりする。もっとも、その反応の大きさは商品によって異なる。場合によっては、その商品を買うこと自体をやめることもある。
食品業界では、値上げ後の販売数量の落ち込みが想定以上になっているケースも出始めた。消費者の「値上げ疲れ」が顕在化。企業にとって重要なのは、もはや「値上げできるか」だけではない。値上げした後も、顧客が買い続けてくれるか。価格戦略は次の段階に入りつつある。
9割の人は「ワンコイン」を希望
その変化を考えるうえで興味深いのが、日本マクドナルドの「セット500」だ。同商品は今回新たに投入されたものではなく、2025年から販売されている。ハンバーガー、マックチキン、マックポークの3種類からバーガーを選び、サイドメニューとドリンクMサイズを付けて500円。平日だけではなく休日も、昼だけではなく夜も500円で提供する。注目したいのは、物価の先高懸念と節約志向が強まるなか、マクドナルドが改めて「500円」という価格そのものを強く訴求していることだ。
同社が全国の16歳以上の男女751人を対象に調査したところ、「ワンコイン500円で満足のいく食事がしたい」と答えた人は89%に達した。
8月18日から放映しているテレビCMのタイトルは「空飛ぶ500円玉」篇だ。オフィス街の空に巨大な500円玉が現れる。それを見た多部未華子さんが「500円といえば、これですから~」とセット500を思い浮かべ、マクドナルドへ向かう。商品の中身以上に「500円」という数字を印象づける広告である。
消費者は外食をしなくなったわけではない。しかし、「この店に入ったら結局いくらかかるのか」に以前より敏感になっている。
単品の価格は安く見えても、サイドメニューや飲み物を注文すれば支払額は膨らむ。そう考えれば、外食そのものを控えるという選択肢も出てくる。そこで「500円で食べられる」と明確に示す。最初から支払額が分かっていれば、消費者は安心して店に入ることができる。つまりマクドナルドが売っているのは「500円で済む」という安心感だ。

