このように手間とコストをかけても確定した判断が難しい署名に比べて、押印には「印鑑証明」というシステムがある。署名の横に実印を押し、役所が発行した印鑑証明書を添えれば、当事者の意思で押印されたものと事実上推定される。もちろん、この強力な効力により、逆に悪用される危険性もある。

「法人の実印であれば、厳重に保管し、押印の記録を残すのは必須。押印の場に必ず2人以上の関係者を立ち会わせるようにするなどの慎重さも求められる」(同)

「角印」の正しい押し方例

「角印」の正しい押し方例

一方、個人のいわゆる認印や三文判、法人の角印など、印鑑登録をしていない印鑑には「推定」の法的効力がない。頻繁に使われ、印影も比較的シンプルだから、どこかに押したものをスキャンして偽造される危険性も高い。個人の印鑑は大量生産されている場合も多く、お金を出せば同じものを買えることすらある。したがって、「争いとなった場合、印鑑登録されていない印鑑は実印よりも効果が大きく劣る」(同)

署名とセットで使われることが多い個人の認印とは違い、法人の角印の場合、会社名や住所などは印刷やゴム印であることも多い。では、偽造などのトラブルを防ぐにはどうすればいいのだろうか。

「署名や会社名の上に認印や角印を重ねて押せば、黒と赤のインクの跡が交わり、他者による偽造が難しくなる」(同)

なんとなく、あるいはスペースがないからという理由で、文字に重ねて押印していた人も多いだろう。しかしこの習慣には、押印の偽造を防いでトラブルを予防する意味合いがあるのだ。

(ライヴ・アート= 図版作成)