「立ち止まれば、置いてきぼりを食う。動きながら考えよ」。親分野を拓き続け、1兆円企業をつくった経営者の言葉は鋭い。だが闇雲に動いてもダメだ。3つのカギが、確かな支点となる。
――世界の政治・経済がすごいスピードで変化し、中国など新興国の台頭はめざましく、史上例のないグローバルな競争が激化しています。もはや欧米追随型のビジネスモデルは後れをとり、刻々と変わる条件下で、日本企業は新たなビジネスチャンスを見いだし、市場を切り拓いていかねば生き残れません。宮内さんはかねてから「変化の時代はチャンスだ」と言い切って、オリックスグループを売上高1兆円企業に押し上げました。
オリックス会長 
宮内義彦氏

【宮内】言うまでもなく、世界は刻一刻と動いています。一方、経営者にあるのは過去の経験です。もう1つ持っている可能性があるとすれば、先見性です。過去の経験は「そうだった」という事実ですが、先見性はまだ「そうなるだろう」という思いだけです。しかしながら、世の中は過去へ絶対に戻りませんから、「過去はこうだったから、それに照らし、こうしたらいい」というのでは、全くダメなのです。過去に照らしつつ、全く違う状況への先見性を発揮することができないと、経営者として何も創造できません。

先見性から創造へとつなげるには「時代の変化とともに動きながら考える」ということが不可欠です。経営者は、立ち止まったら、置いてきぼりを食います。

――宮内さんは、『世界は動く』(PHP研究所)と題した著書を出しましたね。拝見すると、宮内語録の集大成ですが、第3章の「経営の要諦」のなかで「収益が上がっているうちに明日のコア事業を探る」「未来のことを考えるのがトップの仕事」と指摘しています。時代の変化とともに動きながら考えるとして、「明日」とか「未来」とは、どのくらい先のことを指すのでしょう。

【宮内】これは、業種によって違います。オリックスのように金融の近辺の世界でしたら、10年先を考えては間違いで、最長5年、場合によっては2~3年先かもしれません。一方、ものづくりでは、すごく長い場合もあります。米ボーイング社のような次世代の飛行機や、JR東海が手がけるリニア新幹線などは、おそらく20年から30年の世界でしょう。しかしながら、飛行機も列車も、世界や日本の経済の将来像、ヒトやモノの流れの変化などを長期的に読み取るには、やはり「時代の変化」とともに考え、決断しなくてはいけないことは同様です。