④ なぜ、セブンでは真冬に冷やし中華が売れるのか

鈴木氏は、よく、店の中にいる売り手と市場(店の外)にいる買い手の感覚の違いを、室内と室外の違いにたとえた。

たとえば、もし真夏の気温が20度だったら、室外では肌寒くて長袖が必要になるが、室内ではTシャツ一枚でも大丈夫。また、もし真冬の気温が20度だったら、室外では上着など着ていられないが、室内ではセーターを着ていても大丈夫。

店の中(=室内)にいる売り手は、市場(=室外)にいる買い手の「皮膚感覚」を忘れがちだ。この買い手の皮膚感覚の大切さを説くため、鈴木氏がしばしば挙げたのが、セブン‐イレブンで売る「真冬の冷やし中華」の例だった。

〈鈴木語録〉
セブン‐イレブンでは、真冬でも汗ばむほど暖かい日には冷やし中華が売れます。

店の中にいる売り手は、とかく過去の経験や既存の概念に縛られ、「冷やし中華=夏の食べ物」と考えがちです。一方、店の外にいる顧客はそれこそ真冬でも、汗ばむほど気温が上がると「暖かい」と感じ、冷やし中華が並んでいれば、ふと手を伸ばすのです。

この「真冬の冷やし中華」の例で考えるべきは、市場は常に人間の心理や感情と結びついた「皮膚感覚」で動くということです。売り手は顧客の皮膚感覚を忘れてはいけません。

⑤ なぜ、店舗では接客が必要なのか

コンビニも、スーパーもセルフサービスが基本だ。それでも、鈴木氏は、もの余りの買い手市場の時代には売り手と顧客との「対話」を通した接客の重要性を説いた。その理由をこう語った。

〈鈴木語録〉
今の消費者は何を買っていいのか、“迷う”というより、“確認したい”という意識が強くなっています。その商品やサービスが本当に自分のニーズを満たしているのか確認したいのです。

そこで、接客においても、お客様に近づき、買うべき価値があることを顧客に伝えるためのコミュニケーション力が求められるようになっているのです。

接客を通して、売り手が顧客と同じ価値観を持っていることを伝える。顧客との「対話」なしではものは売れなくなっているのです。

⑥なぜ、顧客の心理は「わがまま」で「矛盾」しているのか

鈴木氏は、「日本の消費者の心理は矛盾している」と語った。

たとえば、朝採りの野菜の「鮮度」にこだわる一方で、カット野菜の「利便性」も求める。魚も「鮮度」を気にする一方で、マグロの刺身はお造りになった「パック詰め」を好む。同じおでんでも、コンビニでは好きなネタが選べる方式が好まれるが、スーパーでは袋詰めが好まれる。売り手はこの矛盾にいかに対応するか。

〈鈴木語録〉
買い手市場になれば、顧客はますますわがままになり、欲求は矛盾したものになります。顧客は、売り手が買い手の矛盾をどのように解決してくれるかを見ています。

その解決の仕方に共感すれば、店に足を運び、商品を買ってくれます。

われわれの仕事は顧客心理の矛盾を解決することであり、そこに価値が生まれるのです。

店舗運営のポイント

① なぜ、売り手は「機会ロス」より「廃棄ロス」に目を奪われやすいのか

売り手は、商品の売れ残りによる廃棄ロスに関心が向かいがちで、機会ロスにはあまり目を向けない。それは売り手の心理によるという。

〈鈴木語録〉
なぜ、売り手はとかく廃棄ロスを恐れるのか。

廃棄ロスは目に見えるからです。どのくらい損をしたか数字にもすぐ表れます。

一方、機会ロスはその商品が十分にあれば得られたはずの売り上げが得られずなかったことで生ずるロスです。

機会ロスのほうは直接的には目に見えません。数字にもすぐには出てきません。だから、売り手は廃棄ロスばかりに目を奪われ、消極的な発注に陥りがちなのです。

売り手が廃棄ロスを恐れて消極的な発注を行い、商品が棚に少量しか置かれていないと、顧客は「あまり物」や「売れ残り」と感じ、「選ばない理由」になってしまう。結局、売れないまま、廃棄ロスになる。消極的な発注は機会ロスも増える。

これが繰り返されるうちに悪循環に陥り、売り上げはどんどん縮小均衡になっていく。

「鈴木流経営学の真髄」の前編で、セブン‐イレブンの店舗では商品発注の際、仮説・検証のサイクルを回していくと述べた。この仮説・検証は目に見えない機会ロスを「見える化」するために行うという。

〈鈴木語録〉
天気予報や地域の行事の予定などの情報から、明日はどんな商品が売れるか、売れ筋商品について仮説を立て、思い切って多めに発注してみる。

結果を検証し、仮説どおりに売れれば、その分、機会ロスが生じなかったことになる。つまり、目に見えない機会ロスが売り上げの数字になって「見える化」されるわけです。

仮説・検証を習慣づければ、廃棄ロスより機会ロスの方に目が向くようなり、拡大均衡へ持っていくことができるのです。