松本清張の代表作のひとつであり今なお、人々の心を捉える『砂の器』。作品の舞台と映画脚本を手がけた巨匠の思いを紹介する。
『砂の器』は15字詰めの新聞小説、5、6行だけを膨らませた映画です。
石川県の故郷を捨てた親子2人の乞食(物貰い)は、北陸街道から山陰路を経て奥出雲なのか、または京都大阪に出て、岡山、広島から奥出雲の亀かめ嵩だけに入ったのか……その旅は親子2人だけにしか分からない。
新聞連載の直前に原作者の松本清張さんから、脚本執筆を依頼されていたのですが、出来上がったものは、話が多くて長過ぎ、手に余るので「親子の旅」を焦点にと割り切ったのです。
出雲へのシナリオハンティングの際、脚本を手伝ってくれる洋ちゃん(山田洋次氏)にそれを告げると、親と子の旅だけで一本の映画を? と首を傾げるので、
「出来ても出来なくても、そうするよりしょうがないよ」
出雲でのシナリオハンティングを終わり、東京へ帰ると、洋ちゃんと旅館に籠り、3週間ほどで書き上げました。シナリオはわりと簡単に出来上がったのです。