インドネシア大統領「天然資源は私たちのものだ」
興味深いのはプラボウォ政権がこの書簡を受け取っても、態度を変えているようには見えない点だ。
中国商会総会の書簡が公表されたのは5月12日だが、その直後の20日の国会演説でプラボウォ大統領は「天然資源は私たちのものだ」と語り、輸出価格や外貨収入を国家が管理する必要性を繰り返した。そして、パーム油やニッケルなど世界有数の生産量を誇る国内資源の価格が、いまだに海外市場で決定されている現状を不条理だと批判。「価格は私たち自身が決める。買いたくないなら、買わなくてよい。子や孫のために地下にそのまま残せばよいだけだ」と語気を強めた。
(参考:Sekretariat Kabinet Republik Indonesia「Presiden Prabowo Terbitkan PP Tata Kelola Ekspor SDA, Tegaskan Kekayaan Alam Harus untuk Kemakmuran Rakyat」)
(参考:kompas「Mau RI Tentukan Harga Emas, Prabowo: Kalau Mereka Enggak Mau Beli, untuk Cucu Kita」)
「資源ナショナリズム」を強く打ち出した格好で、資源輸出を一元管理する国営会社設立も表明した。この演説は海外投資家を大いに当惑させ、ルピア安が加速し日々史上最安値を更新、1ドル=1万8000ルピア台を一時突破した。
今回の一連の事態をどう捉えれば良いか。まず、日本が約10年前にウーシュで「裏切られた」ように、中国もニッケル投資で「裏切られた」ことは間違いない。中国が一帯一路の投資先国で公式に不満を表明せざるを得なくなったのは前例がないことから見ても、インドネシアの独立心と予想不可能性は特筆すべきだろう。インドネシアの外交は「自由かつ積極的な原則・政治(politik luar negeri bebas dan aktif)」が基本方針だが、「空気を読まずに、方針をコロコロ変える」とも言い換えられる。
「自国ファースト」に中国が困惑
そもそも、ウーシュ事業で日本が先行していたのは、調査を始めたユドヨノ政権(2004〜2014年)が、東日本大震災の際に被災地を訪れるなどで日本に親近感があったこと、中国の経済的台頭が進んでいなかったことが大きい。
その後のジョコウィ政権(2014〜2024年)でウーシュの受注を機に「中国寄り」が進んだことはすでに書いた通り。だが、「庶民出身で政界のアウトサイダーだったジョコウィにとっては新興勢力の中国と組まざるを得なかった」(現地政界筋)との事情もあったと見られる。
そして現在のプラボウォ政権は中国優遇よりも自国の利益を最優先にする方針を打ち出し、超大国中国をも当惑させている。「中国人が最も重要視する面子(メンツ)をまる潰しにしても、平気で北京に来てウーシュの負債の支払い先延ばしや利息の減免、大型土木工事案件での投資を求めたりする。中国からすればまさに理解し難い厚顔無恥」(日本の外務省関係者)。
インドネシアにとっては、日本・中国だけでなく、あらゆる外国はしょせん利用する対象なのだ。常に「自国ファースト」であることが、今回の中国商会総会の書簡から明らかになった。
