高速鉄道は“中国寄り”に見えたが…

筆者はプレジデントオンラインで、インドネシアと中国、日本の三国の関係を捉える上で、2015年に中国が日本に競り勝って受注したジャカルタ―バンドン間の高速鉄道「ウーシュ」について報じてきた。日本ではこの一件から、「インドネシアは日本を裏切って中国寄りになった」とする見方が強まった。

(関連記事:最初から「日本の新幹線」を選べばよかったのに…日本を裏切り、習近平にすがるインドネシア新幹線の末路

簡単に経緯を振り返ろう。ウーシュ建設をめぐっては、ジョコ・ウィドド(通称ジョコウィ)前大統領が15年、それまでほぼ受注が決まっていた日本の「政府保証を求める円借款方式」の案を退け、突如中国の「政府保証も国家予算からの拠出も求めない民間投資方式」とする案を採用した。

インドネシアの高速列車・Whoosh
写真=iStock.com/wisely
※写真はイメージです

しかし、コロナ禍や用地買収の難航などで建設費は当初想定を大幅に上回った。運賃収入も想定より伸びず、「走る時限爆弾」(インドネシア国鉄総裁)と言われるほど赤字が膨らんでいる。運営主体の民間企業では賄いきれなくなった結果、プラボウォ大統領が今年、国家予算投入に踏み切らざるを得なくなった。これにより日本の関係者からは「だったら初めから日本の方が利率も低く好条件だったのに」とちゃぶ台返しに呆れ返る声が聞こえてくる始末だ。

高速鉄道の内部。日本の新幹線と似ている。
筆者撮影
高速鉄道の内部。日本の新幹線と似ている。

投じた額は“高速鉄道の5倍以上”

実際の利益はともかく、ウーシュは中国の習近平国家主席の巨大経済圏構想「一帯一路」の政治的な象徴となったことは確かだ。ウーシュ受注後、中国のインドネシアへの投資は激増し、日本を追い抜き、最大級の投資国となった。その大部分はニッケル精錬で、ジェトロによると、米国の非営利調査機関「C4ADS」の調査で“中国関連企業がインドネシア国内精錬能力の約75%を保有している”とされる。事実上の独占状態になっている。

(参考:JETRO「政府が注力する鉱物資源・ニッケル産業の下流化」)

ニッケル関連の中国企業に対する税制優遇も採られていた。その上、中国本土で余ったEVをインドネシア政府が補助金を出すことで国内で販売しやすくして「在庫処分に手を貸した」(日系自動車メーカー幹部)などもあったという。少なくとも昨年時点ではインドネシア政府は「中国寄り」であったことは間違いない。

ただ、プラボウォ政権が今年に入り、資源管理をはじめとして各種規制を強化したのは中国の大きな誤算であった。ウーシュの総事業費は約73億ドルで、その4分の3に当たる約55億ドル(約8760億円)を中国側が融資している。だが、ニッケル事業は300億ドル(約4兆7800億円)と5倍強に上るとされ、文字通り桁違いの打撃だ。

(参考:CSIS「Indonesia’s Nickel Industrial Strategy」)

今回直接書簡で不満を強く表明したのは、「ウーシュはあくまで政治的象徴であり赤字も許容範囲だったが、本丸のニッケル事業にまで大きな影響が出てハシゴを外されたのは看過できなかったから」(日系商社幹部)だろう。