日本の石油消費量を少なく見積もっている?
一方、「民間備蓄」とは、備蓄法で民間石油会社に最低70日分の備蓄を保有する義務を定めているものだ。
そして「産油国共同備蓄」とは、産油国と契約を締結し、わが国が貸与する貯蔵タンクに、産油国が原油を搬入して貯蔵しているものである。
現在のパートナーはサウジアラビアとUAE(アラブ首長国連邦)の2カ国。わが国にとっては、非常時には優先的に使用できる(ことになっている)というメリットがあり、所有権は産油国にあるのだが半量は日本の備蓄量としてカウントできるとIEAから認められている。
つまり、産油国の財政負担でわが国が「備蓄」を保持できる仕組みである。
優秀な経産官僚の「作品」である。
だが『石油備蓄の現況』の数値をチェックしてみると奇妙な事実に気が付く。
合計保有備蓄量が7289万KL(≒458478千バレル)で備蓄日数が248日だから、日本の消費量は約180.5万BDということになるのだ。
日本の消費量は本当にこんなに少ないのだろうか?
筆者が手元に置き、事あるごとに参照している統計集がある。大手国際石油「BP」が1953年から2022年まで発行していた「BP統計集(BP Statistical Review of World Energy)」である。
同社は、エネルギー移行の時代に化石燃料中心の統計集を作成・公表し続けるのは望ましくないとして中断し、それまで共に作業をしてきた「Energy Institute(EI)」(*4)に発行を任せることとした。2023年以降は、若干内容を簡素化したが「EI統計集」として基礎データを公表し続けている。
斯界の雄、ダニエル・ヤーギンは海外出張に出るとき、必ず持っていくものが2つある、一つはパスポートで、もう一つは「BP統計集」だと語っていたと伝えられていた。それほど信頼性の高い統計集なのである。
当該統計集によると、日本の消費量は次の様に推移して来ている。
2010年……4,429
2015年……3,997
2020年……3,285
2024年……3,252
このように近年、日本の石油消費量は右肩下がりで減少し続けているが、それでも300万BDを割ってはおらず、前述『石油備蓄の現況』が前提としている180万BD程度にまで落ち込んでいるとは考えにくい。
どこかに「数字のカラクリ」があるのではないだろうか。
民間備蓄の正体は「運転在庫」?
さらに疑問がある。
前述『石油備蓄の現況』には、国家備蓄とは別に「原油1278万KL、石油製品1500万KL、合計76日分」の「民間備蓄」があると記されている。
ただ、実態として、これらは「在庫」ではないだろうか。
石油会社は必ず操業上、必要な在庫を保持しているものだ。中東から原油が日本に到着するまで、通常3週間程度を要する。また石油製品も、国内の供給拠点に配送してから販売するため、一定量の在庫が必要なのだ。
つまり、日本の石油備蓄のうち、「民間備蓄」とされているものの大半は「備蓄」ではなく「在庫」と考えるべきではないだろうか?
筆者の経験では、石油会社は安定操業を維持するために、原油と石油製品合計で少なくとも「60日」分程度の在庫を保管している。備蓄法が民間石油会社に「70日」の「備蓄」を義務付けているのもむべなるかなである。

