なぜ「21歳医大生」が風俗で働くのか

この取材は、2017年でした。

若い女性たちのパパ活や大学生の深刻な貧困については、当事者と、彼女たちを利用して儲けることを狙う性風俗事業者くらいしか理解していない段階でした。

筆者は専門分野での事象なので学生の貧困の実態は知っていたものの、拡散するためには決定的な事例が必要でした。あらわれた女性は現役国立医大生、名門高校卒、真面目な優等生という華麗な経歴――さらに望まないパパ活、望まない性風俗勤めをしていました。

そして、子どもの貧困該当者であり、社会問題のフルコースを背負っていました。

2017年は、労働者派遣法改正から始まった女性の貧困がピークを迎えながら、その実態を誰も理解していない状況でした。男女共同参画や男女平等、働き方改革が浸透する前夜で、まだまだ社会には男性優位が残っていました。そんなタイミングで偏差値70を軽く超えるエリート女子医大生が貧困に陥り、「学生生活を送るために、風俗で望まないアルバイトをする」という話を聞いたのです。

このような早い段階での第一次情報は、それを専門にしている人にしか巡ってきません。巡ってきたとしても、事例が社会病理と繋がっていることに気づかず、聞き流してしまうでしょう。彼女の語りは社会に伝えるべき事象と確信しました。最初に記事を掲載したビジネスサイトでは記録的なPV数になっています。

スマホでニュースを見る人
写真=iStock.com/Tero Vesalainen
※写真はイメージです

書籍化→漫画化→そして…

ここから文章の複利現象が始まります。

そのビジネスサイトはPV数連動型の原稿料で、一般的な報酬の5倍くらいはもらいました。さらに「大学生の貧困」というテーマでいくつかの月刊誌で記事を書き、いくつかの週刊誌からコメント取材がありました。メディアのコメント取材は15分くらい電話で話しただけでお金をくれるので効率がいいです。

そして、「子どもの7人に1人が貧困」という日本財団の調査から、女性と子どもの貧困が社会問題になりました。先進国だと思っていた日本に貧困があるという現実は世間に衝撃を与え、多くの国会議員も知ることになり、各政党は貧困問題の解決を政策に掲げるようになりました。

その時流に乗って連載は『東京貧困女子。』(東洋経済新報社)として書籍化されました。

書籍が発売されたことで、再び21歳の国立医大生の貧困が注目されました。増刷を重ねていきます。書籍は大成功です。一般的には文章の複利現象は書籍化、それが増刷されることがゴールですが、これでは終わりませんでした。

しばらく経ってから大手漫画誌から依頼があり、『漫画 東京貧困女子。』の連載が始まりました。漫画は電子コミックサイトで単話販売から始まって、連載が続けば紙の単行本になります。『漫画 東京貧困女子。』はこの21歳の国立医大生の話から連載が開始されてまだ継続していて、今は14巻まで発売されています。