女性は5年前に働いていた工場に戻ることも考えたが、当時約980ドル(約15万2000円)だった月給は、今や630ドル(約9万8000円)に減っていた。追い詰められた彼女は現在、1食1.4ドル(約220円)以下の食事を、出前アプリで注文している。まさに自分を廃業に追い込んだ、憎かったはずのアプリだ。
「自分がやりたかった商売を潰したアプリのユーザーに、私はなってしまった」と、彼女の胸中は複雑だ。それでも安く注文できるアプリから離れることができない。
「1日220円生活」が注目を集める
実質的なデフレと給与水準の低下が進行する中国で、人々は少しでも節約しようと必死だ。
英BBCが取りあげた中国の29歳男性は、1日2食を約10元(約220円)で賄う極端な節約生活をSNSで発信し、話題を呼んでいる。この男性自身も、こうした極度の節約生活で貯蓄したという。1食あたりわずか約110円で凌ぐ動画が注目を集めるほど、節約術への需要は強い。
節約を発信するインフルエンサーは彼だけではない。24歳の女性は、ミニマリスト生活を提唱し、中国版インスタグラムとも呼ばれる小紅書(シャオホンシュー)で約10万人のフォロワーを抱える。高価なスキンケア製品は用いず、石鹸1つで全身を洗う様子や、長持ちするというだけの基準で選んだ衣類やバッグを紹介している。
中国に蔓延するデフレを受け、こうした節約志向はますます広がっている。ブルームバーグは、供給過剰により企業の業績が悪化し、賃金の低下が発生。これにより消費がさらに冷え込む負のループに陥っていると指摘する。IMFは今年の中国の消費者インフレ率を平均ゼロと予測しており、これは約200カ国中2番目に低い水準だ。
「お父さんは構ってくれない」寒空に靴下もなく
生活の悪化はそこここで起きており、中には心を締め付けるような事例も聞かれる。中国のSNSでは、西安の郊外で撮影された動画が波紋を広げた。
映っているのは7〜8歳とみられる少女だ。気温約10度の寒空のもと、擦り切れたダウンジャケットに靴下もないスリッパという姿で、路上で食べ物を探していた。少女は撮影者に「お母さんは死んだ。がんで、肺がんの末期だった」「お父さんは私のことを構ってくれない」と語った。
家庭環境は複雑だ。香港英字紙のサウスチャイナ・モーニング・ポストによると、父親は定職がなく教育費を払う余裕がないという。少女には障害を持つ異母兄と4歳の妹がいる。3人の世話をしているのは異母兄の母方の祖父で、少女や妹とは血縁関係にない。当局は数カ月前に彼女を小学校へ通わせたが、学習の場になじめなかったのか、教室から逃げ出してそのまま戻らなかった。
11月に公開されたこの動画は瞬く間に拡散し、2000万回以上閲覧された。当局は調査に乗り出し、再就学支援を進めているという。父親はメディアの取材に対し、自分は精神的に追い詰められており、子どもたちを政府に預けたいと明かした。複雑な家庭環境に加え、経済的にも困窮していたとみられる。
ネット上では「なぜ動画が話題になるまで行政は動かなかったのか」「こうした子どもはまだ大勢いるはず」と批判が相次いでいる。


