主人公の敵である鬼も「被害者」

海外の観客が日本人の想像以上に感情移入している点も特徴的です。

「鬼滅の刃」のストーリーは、炭焼き職人の家の息子である炭治郎が、鬼に家族のほとんどを皆殺しにされ、なんとか生き延びたものの鬼(ゾンビ)化してしまった妹の禰豆子を人間に戻すために修行を重ね、仲間とともに鬼と戦うという話です。少年が仲間と悪に立ち向かうという点では、「週刊少年ジャンプ」の王道的なストーリーです(とくに氷河期世代の方であればうなずかれるでしょう)。

しかし鬼はもともと人間で、現実世界では差別、貧困、権力者や富裕層にひどい目に遭わされ、怒りや悲しみの結果、鬼になってしまいます。鬼にも悪の道に落ちる理由があり、最後には正気を取り戻したり、現実世界での思い出を回顧したりします。

主人公の炭治郎や仲間たち、そして鬼も、家族思いで、家族のために一生懸命働いたり戦う、という共通点があります。

「なぜ自分たちだけこんなに苦しいのか」

日本だけではなく今の先進国の子どもたちや若い世代が置かれた状況を見ると、なぜ彼らが「鬼滅の刃」にこんなに共感を覚えるのかということがよくわかります。

とくに海外の場合は日本以上に最近は経済的な状況が悪く、自分や家族が勉強や仕事を一生懸命がんばってもいきなりクビになってしまったり、お金がないので思うような生活ができず非常に苦しい状況にあるのが事実です。

都会で金を乞うホームレスの男
写真=iStock.com/coldsnowstorm
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北米と欧州の場合は教育費用が高騰し、やる気があっても進学できなかったり大学に行けない、進学できても莫大な借金を背負わざるを得ず、しかしコネがないので良い仕事にはありつけないという若者が大勢いるのです。

そのいっぽうで富裕層は税金の支払いを回避したり自分たちのサークルの中で仕事を回し合って大儲けしているので、それを実際に見ている若者たちは自分たちはなぜこんな状況にあるのだろうと怒りをためているのです。

彼らの少なからずがアメリカではトランプ支援者になり、欧州では極右の支援者になっています。日本の場合は2025年7月の参院選で20代の若者が参政党や国民民主党に投票したという点が似ているでしょう。

つまり彼らは既得権者や権力者、富裕層などに対し大変な怒りを感じているのです。