死んだ後もスマホ画面の記録は残ってしまう
この種の事案で気になることがあります。死因が病死だとしても死者が最後に見ていたスマートフォンの画面は女性の裸の動画なわけで、死者としては家族などに最後の状況として知らされるのはいささか残念かもしれません。死んだ後も最後に見ていたスマートフォンの画面の記録は残ってしまうのです。最後に見ていた画面だけではありません。現代のデジタル社会において、デジタル機器やデジタル空間上に残された、死者が生きた痕跡はどうなってしまうのでしょうか。そのような死者の痕跡をデジタル遺品というようです。
検視の現場では、家族の了承を得て、死者のスマートフォンやパソコンに残されたデジタルデータを確認することがあります。しかし、死後は指紋認証も顔認証も反応せず、パスワードがわかるようにどこかに残されていなければ中身を開くことはできません。そうなると、そこに遺書や大切なメッセージ、終活の記録や財産情報があったとしてもすぐにはたどり着けず、家族ともども途方に暮れることがあります。
デジタル遺品の終活
最近では、このようなデジタル遺品の終活も問題になっているようです。
デジタル遺品とは「デジタル環境を通してしか実態がつかめない遺品」を指します。パソコンやスマートフォンなどの端末の内部に保存されている写真や文書などのファイル、メールやウェブサイト閲覧履歴、SNSのアカウントやネット銀行の口座情報など、インターネットというデジタル環境を通して利用するものは持ち主や契約者の死後にデジタル遺品となります(古田雄介「「デジタル遺品」でトラブルにならないために」『ウェブ版国民生活』2021年11月号)。
相続において、パソコンやスマートフォンなどの端末は法律上では動産として扱われ、所有権の対象となり相続人が相続します。相続人が複数いる場合は全ての相続人の共有になり、それぞれの相続人は相続分に応じて使用でき、売却するにも相続人全員の了承が必要になります。
一方でデジタル遺品は無機物であり原則所有権が認められないものの、死者が撮影した写真などの著作権は相続の対象になり、相続人が著作権を引き継いで使用することができます。また、生前は私的メールの無断閲覧はプライバシーの侵害に当たりますが、死者のメールは原則侵害に当たらないのです。なるほどと思いますが、日本では死に関する法や制度があまり社会に周知されていません。

