一見、夜の環境に近づいたようでも、「主時計」も時計遺伝子も太陽光の昼夜リズムに同期してバイオリズムを刻んでいるのですから、メラトニンの合成はされません。

夕方以降に作られるメラトニンは、ベッドに入って目を閉じると、松果体からホルモンとして血液に分泌され、全身に「就寝!」の指令を発します。

それに合わせて、自律神経も交感神経から副交感神経に切り替わり、「休め! エネルギーを補給せよ」という指令が全身に発令されます。この指令を受けて、生体の内部状況が一気にお休みモードに切り替わるのです。

すると血圧も心拍も呼吸も鎮まり、体温も下がります。深部体温が下がると、脳の働きが全体に落ちて、覚醒から睡眠に移行します。

もちろん、外部からの感覚刺激(ストレス性の感覚刺激)もないので、脳は休止状態になります。これが「睡眠の導入」です。

日本人から快眠を奪った犯人は?

人は「夜」に寝るように進化、発達してきました。

しかし現代は、自らの意思で夜行性動物のような「昼夜逆転生活」をする人も少なからずいるようです。「7時間ぐらいの睡眠時間を維持すれば、いつ寝ても問題ない」と、勘違いしている人たちも多いのが現実です。

しかし、睡眠に必要なメラトニンは光によって調節されているので、例えば夜中に強い光の中にいると、体内時計の働きが乱れてメラトニンの分泌が抑えられてしまい、睡眠覚醒のリズムが乱れる原因になります。

いまから50年ほど前の昭和の時代には、深夜のラジオやテレビ放送はなく、遠い異国でオリンピックや国際競技大会が開催されていても、いまのようにリアルタイムで楽しむことはできませんでした。

また、いまでは日本中どこに行っても、コンビニエンスストアの看板を見ないことはありません。コンビニエンスストアは1970年代に出現し、当時は「夜でも買い物ができる」と、画期的な営業形態でした。

ところがいまや、日本では24時間営業のコンビニエンスストアが当たり前になってしまっています。ただし、発祥元の欧米では、終夜営業は広まってはいません。日本だけが“異常”な状態なのです。

こうした時代の変化もあって、平成の時代以降、日本人の働き方が大きく変わってきています。

象徴的なのは「非正規労働」の広まり。社会生活を営む日本人の中に、自分の意思で、夜勤だけを選ぶ人が現れてきたのです。

こうした新しいライフスタイルは、日本ではここ20〜30年の歴史でしかありません。少なくとも欧米では、一般的に行われていないライフスタイルです。

医学・生理学的見地からすると、完全に「誤ったライフスタイルだ」と言って過言ではありません。人間は夜行性動物のように生活し続けていたら、絶対に健康を維持できない動物なのです。