保守層の期待が重荷に

高市早苗新総裁の誕生で、支持者の間では参政党に逃げた岩盤保守層が戻って来るなど、自民党の保守回帰が始まったと期待する向きが多い。しかし、衆参で過半数を失った現実の前に、連立の拡大や部分連合が欠かせないが、与党の公明党からも、裏金問題へのケジメや歴史認識の問題で厳しい注文が出ている。

高市早苗氏、麻生太郎氏ら自民党の新執行部
写真=時事通信フォト
臨時総務会で笑顔を見せる(左から)古屋圭司選対委員長、有村治子総務会長、麻生太郎副総裁、高市早苗総裁、鈴木俊一幹事長、小林鷹之政調会長=7日午前、東京・永田町

史上初めての女性首相の誕生への期待の一方で、高市カラーを封印すれば、頼みの岩盤保守層も取り戻せない。むしろ分断も進んで自民党解体が早まるのではないかという悲観的な声も出始めた。

高市劇場の幕開け

大方の予想を裏切って、国会議員の分厚い支持で最有力と言われた小泉進次郎氏を1回目の投票から大量の党員票でリードし、決選投票でも僅差でかわした高市早苗氏。女性初の首相の誕生も間近だと株式市場も連日史上最高値を更新するほど好意的に受け止め、海外メディアの反応も上々だ。

市場関係者は、小泉優勢の事前報道があふれたなかでの、高市氏の逆転劇はサプライズと受け止められた。海外では当たり前の女性宰相がようやく日本でも登場すれば、極右出身ながらバランスの取れた財政運営で知られるイタリアのメローニ首相のように米トランプ大統領との関係もうまくいくのではないか、と解説する。

ドラマの立役者は、麻生太郎氏だ。小泉氏を全面的に支援した菅義偉氏、小泉氏と共に林芳正氏を推した岸田文雄氏、そして麻生氏の3人の首相経験者の争いが総裁選のもう一つの注目点だったが、結局、軍配は麻生氏にあがった。

「宝くじ」を当てた麻生氏

自民党唯一の派閥を率い、1回目の投票では、小林鷹之氏と茂木敏充氏にそれぞれ票を流し、その見返りに決選投票では高市氏に入れさせることに成功した。派閥が権謀術数を競い合ったかつての自民党の総裁選を彷彿とさせる巧みな戦術で、見事に形成を逆転させたのだ。

麻生氏を古くから知るベテラン議員は、「麻生は大当たりの宝くじを引いたな」と舌を巻いた。

しかし、その麻生氏の剛腕以上に、議員たちの気持ちを動かしたのは、党員票の結果だった。麻生氏が直前に派内に出した指示は、「決戦投票では党員票で1位になった候補に投票してくれ」だった。