北九州市は、バイオディーゼル燃料で走る市営バスを所有。市内50カ所ほどで、使用済み食用油の回収を行っている。

「市民の足」として、北九州市内を走るバス。一見するとどこにでもある光景だが、実は燃料として使用されているのは、一般家庭などの使用済み食用油をリサイクルして製造した「バイオディーゼル燃料」(BDF)である。地域ぐるみでの回収を促進するため、同市では積極的な呼びかけや回収ボックスの設置などを進めている。また、ゼロ・エミッションを目指す「エコタウン事業の一環として、九州工業大学大学院が主体となり、生ゴミからバイオマスプラスチックを製造する実証研究なども行われている。まさに、循環型社会の一端が垣間見える好例であると言えよう。

このように、動植物などから生まれた生物資源を総称して「バイオマス」と呼ぶ。人類は古来より薪や炭などを利用してきたが、こうした身近なエネルギー源も広義のバイオマスである。家畜排泄物、下水汚泥、生ゴミ、間伐材、藻類ほか、活用できる資源は実に多彩だ。これらをエネルギーに変換するための技術にもさまざまなものがあり、直接燃焼から糖化・発酵、ガス化・再合成まで、多様なレベルで研究や実証実験が行われている。

バイオマスの主な特性として、まず「カーボンニュートラル」であることが挙げられる。バイオマス発電の方法としては「燃焼」や「ガス化」などがあるが、この際、当然CO2が発生することになる。ただし、植物は生長の過程においてCO2を吸収するため、全体として考えれば「二酸化炭素の量は増加しない」とされているのだ。地球温暖化対策において、有効な手段として期待が高まっているゆえんである。

もちろん、単に「環境にやさしい」という特性だけで注目されているわけではない。日本では2010年12月、「バイオマス活用推進基本計画」が閣議決定。産学官の連携による技術開発や普及などを推進し、2020年の目標として、およそ2600万炭素トンのバイオマス利用、約5000億円規模の新産業創出などを掲げている。つまり、それだけ大きなポテンシャルを秘めているというわけだ。この目標をすべてエネルギー利用で達成したと仮定すると、ある試算によれば電気利用可能量で約130キロワット時(約280万世帯分に相当)、原油換算の燃料利用可能量で約1180万キロリットル(ガソリン自動車約1320万台分に相当)となる。

海外に目を向けてみると、化石燃料の軽減(主に交通部門)や温室効果ガス排出の抑制を目指し、国家プロジェクトとして政策的にバイオマスを推進する動きが増えている。EUを例にすると、2020年までに、交通部門における燃料利用のうち、およそ10%をバイオ燃料(再生可能エネルギー利用電気なども含む)とする政策を掲げている。

さらに世界全体の状況を記しておくと、バイオマスの割合は一次エネルギー総供給のおよそ10%(2010年時点)と、実はかなり重要なポジションを占めている。先進国(OECD諸国)平均は4.5%、開発途上国(非OECD諸国)平均は14.5%で、世界のシェアの平均は9.8%である。対して、日本は1.2%と、まだまだ開きがあるのが現状だ。