若いからできるということもあるだろうし、一時の熱狂ということもあるのだろう。しかし、いわゆるブラック企業と、すばらしいイノベーションを起こす「伝説企業」を分けるものが、単に労働時間の問題だけではないことを見極めることは、大切である。

鍵になるのは、脳が働く喜びを受け取るために必要な「主体性」。脳は、能動的に外界に働きかけ、その結果をフィードバックとして受け取ることで喜びを感じ、成長していく。

仕事が大変でも、そこに主体性があれば、人はがんばることができる。かつての日本の高度経済成長期における「モーレツ」は、そのようなものだったのかもしれない。

福沢諭吉が日本の課題として掲げた「独立自尊」は、自ら考え行動する、主体性の重要さを説いた言葉だ。(写真=時事/PANA)

福沢諭吉は、日本の課題として、「独立自尊」を挙げた。個人が、自ら考え、行動し、働きかけることができるか。グローバル経済の中で、イノベーションを通して付加価値を生み出す企業は、主体性のある個人が支えて初めて可能になる。

主体性のある個人は、同じく主体性を持つ他者を尊重する。「他者の人格を目的として扱う」というカントの格率にも、通じる哲学だ。

「ブラック企業」が許されないのは、人を目的ではなく手段として扱うからである。結果として、その企業が一時的に収益を上げたとしても、その「外部不経済」のツケが社会に回ってくる。

人間を手段として扱うのか、人格を目的として尊重するのか。この点が、ブラック企業と伝説企業の分かれ目になる。

日本という国についても、同じことが言えるのではないか。

(写真=時事/PANA)
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