「報道特番やドキュメンタリー、めっきり減ったナイター中継を除いて、見たいテレビ番組がほとんどない。昔は家族でチャンネル争いをしたものだが……」

そんな思いを抱いている中高年のビジネスマンが多いのではないか。

そうした一方で、テレビ局の正社員――いわゆるテレビマンは相も変わらず高給を手にしており、給与ランキングでもテレビ局は証券会社や不動産会社と一緒に上位に肩を並べている。それもまだ30代のテレビマンなのに年収1500万円超である。

それほどまでにテレビマンが高給取りでいられる秘密は、テレビ局の収益構造にあると会計士の私は睨んでいる。

図表1
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図表1

民放テレビ局は視聴者から視聴料をとらず、放送事業収入といわれるCM収入で成り立っている。日本テレビ放送網(日本テレビ)の収支構造を見ても、売上高2778億円のうち、8割以上がCM収入だ(図表1参照)。このCM収入なくして、視聴者に視聴料を課さないビジネスモデルは成立しえない。

結局、スポンサーが負担する広告料は我々が支払う商品やサービスの価格に転嫁されているのだが、この収益モデルは、サイト上にアップする広告を収益の柱とする、インターネットの検索サイトと同じだ。ちなみにNHKは、マイクロソフトと同類の収益モデル。NHKはテレビを買うと同時に視聴料を払うことになり、マイクロソフトはパソコンを買った瞬間にOSの代金を払わされる仕掛けである。

テレビCMは、番組の途中で放送される「タイム」CMと、番組が終了後から次の番組が始まる間に放送される「スポット」CMとにわかれる。

タイムのCM料金は1カ月当たり約3000万円(30秒)が目安になっており、1クール(13週)で9000万円、基本となる半年契約(26週)では1億8000万円の計算となる。26回で1億8000万円なら、ドラマ1話分の合間に流すCM料金は約700万円。1番組、スポンサー1社につき、700万円がテレビ局に入るというわけだ。一方のスポットCMは15秒が基準で、1本200万円程度からといわれる。

お茶の間で何百万人もの人が見ていれば、商品やサービスの訴求効果は数千万円、何億円にも達する。そんな前提からテレビ局には企業からの莫大なCM収入がもたらされ、これがTVマンの高収入を支えているのだ。

図表2
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図表2

総務省の調査によると、2006年の放送市場は4兆488億円規模で、そのうち、地上系民放は2兆6157億円にのぼる。その約半分は、日本テレビ、東京放送HD(TBS)、フジ・メディアHD(フジテレビ)、テレビ朝日、テレビ東京という在京のキー局5社が占めているが、許認可行政に守られて新規参入はほとんどない。つまり、価格競争が起こらないため、高い広告料を設定できるのだ。さらにCM広告料には制作費は含まれず、仕入れ原価もかからない。莫大な価格であり、かつ粗利も高い。まさに“左団扇”でお金が入る収益モデルなのだ。

フジテレビでは平均年収が1500万円を超え、生涯賃金は5億8500万円弱にも及ぶ(図表2参照)。大学、大学院卒の生涯賃金平均は男子2億9000万円、女子2億6000万円となっており、その差は実に2倍以上にもなる。

(構成=高橋晴美)