潮流発電をご存じだろうか。その名のとおり、潮の流れを利用した発電のこと。基本的な仕組みは風力発電と同様で、水の流れをプロペラやブレードなどで受け止め、そこで得た回転エネルギーを発電機で電気エネルギーに変換するというものだ。

原動力となる「潮流」について少し解説すると、“潮汐”にともなう海水の流れということになる。海水面は、月と太陽の引力によって、周期的に上下している。これが潮汐だ。その際、海水が移動することで潮の流れが生まれるのである。地球が自転しているため、満ち潮と引き潮は1日に2回ずつ起こり、潮の流れはおよそ6時間ごとに逆方向になる。

実はこの周期性、規則性が発電にとっては好都合だ。天候に大きく左右される太陽光発電や風力発電では、なかなかその発電量を予測するのが難しい。一方、潮流発電においては、予めおおよその発電量を把握することが可能。再生可能エネルギーのデメリットの一つをカバーしているのである。

すでに英国では、世界で初めての商用潮流発電がスタート。米国や韓国でも、国家プロジェクトとして計画が進められているという。しかし国内では、導入補助の支援制度などもないため、まだ実用化された例はない。そうしたなか、積極的な開発を進めているのが福岡県の北九州市だ。

北九州市が自治体主導で潮流発電開発に取り組む背景には、「関門海峡」という希少な“資源”の存在がある。潮流のスピードというのは海域や場所によって異なるが、関門海峡のそれは最大で毎秒4.8メートルほど。国内でも屈指の速さなのだ。

2012年3月、ニッカウヰスキー門司工場の桟橋に設置された潮流発電の実験装置。写真の下の方に写る青い部分がブレードで、水の流れを受け止める。

同市ではまず、平成22年度に理論上のエネルギーふ存量を推計。航路などを考慮しない理想的な状態を想定したとき、関門海峡の調査領域で年間約22億5000万キロワット時という結果を得た。さらに、航路などを除いた北九州側の海域に断面積1平方メートルの水車を設置した場合でも、理論上エネルギー量が5500万キロワット時あることが分かった。これは一般家庭約1万6000世帯に相当する。

続いて実証実験に向けて行ったのが、発電装置を設置する場所と、水車の型の検討だ。場所については、流速計を用いて水流を測定。設置のしやすさなども考慮し、ニッカウヰスキー門司工場の桟橋に決定した。そして、水車の型として選ばれたのが、写真にあるような「ダリウス型」と呼ばれるもの。地元の九州工業大学平木准教授らの研究室で研究開発されたものである。