生産性を測るための指標として、吉野家には「人時客数」という独特の指標がある。人時客数は、1時間当たりにひとりの店員(キャスト)が何人の客を捌いたかを見る指標だ。

飲食店は回転率を重視する。特に、客単価が低いファストフード店の場合、回転率を上げることが至上命題となる。注文を受けてからサーブするまでの時間を短縮することで、回転率は上昇する。

しかし、アイドルタイム短縮のために店員を増やせば人件費がかさむし、店員を増やしてもスキルが低ければアイドルタイムの短縮はできない。つまり、あくまでもひとりの店員が単位時間当たりに捌ける客数を増やすことが重要。人時客数には、こうした含意がある。

さらに、人時客数アップのためには、厨房で使う道具も大切だ。人時客数を高めることができる道具とは……その象徴が、吉野家の“お玉”である。

吉野家のお玉の穴の数は47個。穴の直径は企業秘密とのことだが、穴の数も直径も全店舗共通だ。安部社長は言う。

「一発で盛りつけたとき、たれの量がご飯に対して最適なバランスになるように、穴の数と直径を決めてあるんです」

つまり、このお玉を使わなければ、たれとご飯のバランスが崩れて、「つゆだく」や「つゆ抜き」になってしまうわけだ。しかし、効率ということを考えた場合、むしろ重要なのは「1発で盛りつけたとき」という安部社長の言葉だろう。裏返して言えば、このお玉、2発や3発での盛りつけを許してくれないのだ。

つまり、このお玉の機能は、たれの量を最適化するだけではない。これを使う以上、一定動作で盛りつけをせざるをえないのだ。穿った見方をすれば、お玉の形状に、店員の動作を規定する力がある。