「片務的」と言えるほど楽天に有利な提携の背後

KDDI(au)と楽天が11月1日、業務提携を発表した。楽天は2019年秋に携帯事業に新規参入する際、KDDIの通信設備を利用(ローミング)する。KDDIは楽天の協力を得て通信以外のサービス事業を拡大する。

全国を網羅する通信設備の整備には1兆円以上のコストがかかるとされるが、今回の契約で楽天は2026年3月末までKDDIの設備を借りることができる。「片務的」と言えるほど楽天に有利な提携の背後には、三木谷浩史楽天会長兼社長のしたたかな戦略がある。

2018年2月13日、決算発表の席上、携帯電話事業への参入計画を説明する楽天の三木谷浩史会長兼社長。突然の発表の裏には、したたかな戦略があった(写真=時事通信フォト)

「4番目の携帯キャリアを育てるのは国の施策だ。我々がローミングしなくても、どこかがやることになる」

発表の翌日、日本経済新聞に掲載された高橋誠KDDI社長のインタビューのこの一言に、今回の片務的提携の理由が隠されている。

2019年秋に楽天を携帯電話市場に参入させることは「国の施策」つまり「国策」であり、KDDIは国策に逆らえなかったのだ。順を追って考えてみよう。

楽天参入は「消費税の10%引き上げ」とピタリと重なる

楽天が自ら回線を持つ第一種通信事業者として携帯電話市場に参入する2019年秋は、消費税の10%引き上げとピタリと重なる。政府は軽減税率の導入やプレミアム付き商品券の導入などを検討しているが、どれも増税ショックの緩衝材としては不十分だ。3%から5%に引き上げた1997年にも、5%から8%にした2014年にも国内景気は大きく冷え込み、政権与党への支持率は落ちた。

手っ取り早く国民の懐を温める方法の一つは、有権者の大半が使っている携帯電話料金の値下げである。財源はキャリア大手3社が荒稼ぎしている3兆円を超える利益だ。

NTTドコモの2017年度通期決算は営業利益が3%増の9733億円。KDDIの営業利益は5.5%増の9627億円。ソフトバンクグループの営業利益は27.1%増の1兆3003億円である。3社で3兆2300億円の一部を通話料の値下げで国民に還元する。携帯電話はほとんどの有権者が使っているから、減税と同じことになる。

官邸の中の誰かが思いついたのか、官僚が官邸に囁いたのかは定かでないが、賢いやり方だ。キャリア3社にすれば「冗談じゃない」と言いたいところだろうが、1社で4000億~5000億円を吐き出しても会社が潰れることはない。そもそも日本の携帯電話料金は世界的に見て割高なのだ。