経産省の原子力安全・保安院は4月12日、今回の福島原発事故をINES(国際原子力事象評価尺度)レベル5から深刻な事故=レベル7に修正した。問題は、発表した時期とその目的だ。

まず、発表時期の遅れが自治体や学校、企業の対応の遅れを招いた可能性がある。個人の被曝量は後から加算され蓄積するものだから、危険度が高いことが初めから知らされていれば、高濃度の放射性物質が放出された直後に迅速に避難して蓄積を減らすこともできたはずだ。政府の情報開示と危機管理は拙劣にすぎる。

しかも、保安院と東電は専門家が事故経過を把握するための情報をいまだ開示していない。それゆえ、国内の科学者の知恵が今も結集できずにいるのだ。

事実、海水の塩分が炉心水流を妨げることを米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)が3月23日に報じた3日後、政府は慌てて真水に切り替えたが、その7日前に物理学者の槌田敦氏が直訴した同じ警告は無視されている。断片的に発表される核種分析で、複数の科学者が「すでに再臨界に入ったのでは? 」と懸念する今も、基本情報は閉ざされたままだ。

最悪の事態として想定される「再臨界→メルトダウン→水蒸気爆発」の危機回避と情報開示について、同氏は「情けない話ですが、どちらも解決することはないでしょう。米NRC(原子力規制委員会)がしびれを切らして命令し、それに従うだけだと思います」という。

次に、発表の目的の問題とは、政府の巨大災害認定で東電の補償責任が免責されうることだ。原発事故レベルの引き上げだけではなく、政府は地震規模もM8.8からM9.0に修正している。事故原因と事故レベルが巨大であれば、原賠法(原子力損害賠償法)の例外規定「政府が必要な措置を講じる」が適用しやすくなり、東電の賠償責任は免責、被害者補償はすべて政府負担となる。津波への冷却システム保全の不備を放置し続け、その後も3桁にのぼる機器類の点検洩れが露呈した今回の事故に、この例外規定が無条件に適用されれば、東電は補償責任から解放されることになる。

被害者救済に不足があれば国庫出動で補うべきだが、まずは事故収束策と、今後二度と繰り返さないための加害者責任の所在が問われている。東電が巨額の内部留保を含む全資産で償わなければ、被害者も国民も納得しないだろう。